『Kulturlandschaft – Äcker, Wiesen, Wälder und ihre Produkte』(Ulrich Hampicke, 2018)

『Kulturlandschaft – Äcker, Wiesen, Wälder und ihre Produkte』(ウルリッヒ・ハンピッケ著、2018年)は、現代の都市住民を主な読者層として想定し、ドイツ・中部ヨーロッパにおける文化的景観(Kulturlandschaft)の成り立ち、現状、そして課題と可能性について、体系的かつ平易な言葉で解き明かす一冊である。本書は、専門家による学術書というよりは「読本」「教養書」としての性格が強く、歴史・経済・生態学・政策論を横断しつつ、現代社会が直面する土地利用・農業・生物多様性・気候変動・食とライフスタイル・市民参加といった問題系を広い視野から論じている。

本書の冒頭で強調されるのは、我々が日常的に目にする「田畑」「牧草地」「森」などの景観が、いかにして人間の営為と自然の相互作用によって、長い歴史の中で形成されてきたかという事実である。ドイツ語で「Kulturlandschaft」と呼ばれる文化的景観は、単なる“自然”の延長ではなく、農業・林業・牧畜などを通じて人間が持続的に手を加え、作り上げてきた“人工的自然”とも言うべき存在であり、そこには人々の知恵や労働、技術革新、社会構造、さらには政策や市場経済の影響までもが織り込まれている。

本書のイントロダクションで語られる最も重要なメッセージの一つは、「現代のKulturlandschaftは重大な危機に瀕している」という警告である。近代農業の発展、とりわけ第二次世界大戦後の産業化・集約化・機械化・化学肥料や農薬の大量投入によって、ドイツの農村景観は急速に変貌した。かつて多様な生息地を含んでいたモザイク状の農地や牧草地は、単一作物の広大な畑(モノカルチャー)や、効率優先の大規模経営へと再編され、多くの小規模景観要素(生け垣、水路、小林、湿地、耕作放棄地など)が失われた。その帰結として、かつて豊かだった生物多様性が著しく損なわれ、土地の“表情”は画一的になり、自然災害への脆弱性も増した。

しかし、文化的景観の価値は「物質的な生産物」だけには留まらない。著者は繰り返し、“Kulturlandschaft”がもたらす多面的な価値、すなわち景観美・歴史的アイデンティティ・生態系サービス(炭素固定・水循環・土壌形成など)・レクリエーション・精神的癒し・地域コミュニティの形成基盤といった、非市場的・無形の効用にも光を当てている。こうした総合的な視点は、従来の“農業=食料供給”という狭い枠組みを超え、持続可能な社会づくりや気候危機への対応、都市と農村の新しい関係の模索にも直結している。

本書はまた、「なぜ我々がこの伝統的景観を守らねばならないのか」という問いに対し、歴史・生態・経済・社会・倫理の諸側面から答えようとする。例えば、ドイツのKulturlandschaftは、約1万年前の氷河時代の終わりに始まり、ケルトやゲルマンの農耕社会、ローマ時代の灌漑技術、中世の荘園制度、産業革命以降の近代化など、数多の時代を経て発展してきた。各時代の技術革新や社会変革、戦争や人口変動、土地政策などが、景観の姿を少しずつ、しかし着実に変えてきたのである。例えば、近世まで多く見られた“ハーフェン”や“ブレードン”、共有林などの伝統的土地利用形態は、近代農地整理や森林管理制度の中で失われていったが、その名残や地名、景観要素は今日の風景にも色濃く残っている。

同時に、著者は「Kulturlandschaftの危機」は一農村の問題ではなく、都市住民を含めた社会全体の問題であると繰り返し訴える。都市と農村、消費者と生産者、政策決定者と現場、すべてがつながっており、どこか一方が「外部」や「他人事」としてこの問題を切り離すことはできない。例えば、現代の食生活やエネルギー消費、グローバルな農産物流通は、ドイツ国内外の土地利用や自然環境に直接的・間接的な影響を与えている。また、EUやドイツ連邦政府による農業補助金・環境政策・景観保全策など、政策的な枠組みもKulturlandschaftの将来を左右している。

具体的には、本書の中盤以降で現代ドイツの農業構造(技術・社会・経済の三側面)、生物多様性危機、土壌・水・栄養塩バランスの問題、農業政策・環境政策の変遷、現場の創意工夫(エコロジカルネットワーク、ビオトープ連結、LIFEプロジェクト、ナショナルパーク、ビオスフェア保護区、農家の多様化戦略、都市近郊農業など)、さらに新しい食とライフスタイルの動向(ベジタリアン、ビーガン、フレキシタリアン、地産地消、CSA、ファーマーズマーケットなど)が、詳細な事例・統計データ・政策論争を交えつつ論じられる。農業や林業がいかにして社会的・経済的プレッシャーにさらされつつ、多面的価値の維持・再生に挑戦しているかが、多角的に描かれている。

また本書では「森(Wald)」にも特別な章を割き、ドイツにおける森林の歴史、現状、利用と保全のジレンマ、バイオマス利用や気候政策、レクリエーション・文化的意味、生態系ネットワークとしての重要性など、包括的に論じている。ドイツの森は単なる「木材生産地」ではなく、歴史・経済・自然・精神文化の中核に位置づけられており、「Waldsterben(森林死)」などの危機が国民的関心事となった経緯や、ナショナルパークや自然林保護の取り組みも紹介されている。さらに、経済合理性だけでは測れない「森林の価値」が再認識されつつある現状が強調されている。

本書の終盤では、「なぜ持続可能なKulturlandschaftが今こそ必要なのか」「そのために市民社会は何ができるのか」という課題に踏み込む。著者は、技術や市場原理、トップダウンの政策だけでは解決できない「社会的なコア問題(gesellschaftliches Kernproblem)」として、農業・景観・生物多様性・食文化・地域コミュニティの未来を問う。持続可能な社会の実現には、単に「環境にやさしい農業」への転換や「緑の消費」だけでなく、多様な社会的アクターによる合意形成・対話・参加・創発が不可欠であり、都市と農村、消費者と生産者、政策と現場、すべてが有機的につながり合う新しい関係性の構築が求められていると指摘する。

本書の最大の特徴は、現状分析・課題提示に留まらず、実践的な解決策や「希望の兆し(Lichtblicke)」にも焦点を当てている点である。EUのLIFEプロジェクト、ナショナルパークやビオスフェア保護区、地域住民による景観管理・農村イノベーション、科学者・政策担当者・市民の協働事例、「Gemeinwohlprämie(公益補助金)」のような新しい政策ツール、さらには新たな食文化やライフスタイルの動きにまで言及し、読者に「自分にできること」「社会全体でできること」を考えるきっかけを提供している。

一方で、著者は「進歩や成果は決して一足飛びではなく、時に遅く、時に後退も伴う」と冷静に指摘し、過度な理想主義や悲観論のいずれにも陥らず、持続可能なKulturlandschaftの未来を「不断の努力と多様な社会的対話」に委ねている。政治や行政の限界、利害対立、農業者のアイデンティティ、消費者の責任など、多様な視点から“ゆっくりとした変革”を促しているのである。

総じて『Kulturlandschaft – Äcker, Wiesen, Wälder und ihre Produkte』は、現代社会にとって「農地」「草地」「森林」という身近な景観の成り立ちと価値、危機と再生、そして我々自身の暮らしや選択が持つ意味を、多面的かつ具体的に、時に批判的に、しかし希望を込めて描き出した書物である。都市住民も農村住民も、消費者も政策担当者も、すべての社会的アクターが「他人事」ではなく「自分事」としてこの問題に向き合うことの重要性――これこそが本書の根底に流れる最大のメッセージである。


Inhaltsverzeichnis(目次)

  1. Einleitung
     序論
  2. Kurze Geschichte der Landschaft in Mitteleuropa
     中欧における景観の略史
     2.1 Nacheiszeit
      氷河時代後
     2.2 Einwanderung
      移住
     2.3 Der Mensch in der Altsteinzeit
      旧石器時代の人間
     2.4 Landwirtschaft in der Jungsteinzeit und darauf
      新石器時代以降の農業
     2.5 Römerzeit
      ローマ時代
     2.6 Mittelalter
      中世
     2.7 Neuzeit, Aufklärung und Wissenschaft
      近代、啓蒙、科学
     2.8 Technik und Industrie bis 1950
      1950年までの技術と産業
     2.9 Industrialisierung
      産業化
  3. Das Agrarsystem in Deutschland 2010 bis 2020 – die technische Seite
     現代ドイツの農業システム 2010~2020年 – 技術的側面
     3.1 Die Privilegierung Mitteleuropas
      中欧の特権性
     3.2 Erster Blick auf die Flächennutzung und pflanzliche Erzeugung
      土地利用と植物生産の初見
      3.2.1 Ackerlandschaften
       耕作地景観
      3.2.2 Dauergrünland
       恒久草地
      3.2.3 Dauerkulturen
       多年作物
     3.3 Tierhaltung
      家畜飼育
     3.4 Die Erzeugungsstruktur der Landwirtschaft
      農業生産の構造
      3.4.1 Methode
       方法
      3.4.2 Pflanzliche Erzeugung
       植物生産
      3.4.3 Futterwirtschaft
       飼料生産
      3.4.4 Tierische Erzeugung und deren Energieeffizienz
       動物生産とそのエネルギー効率
      3.4.5 Agrargüterwirtschaft Deutschlands und Außenhandel
       ドイツの農産物流通と対外貿易
     3.5 Zusammenfassung
      まとめ
  4. Das Agrarsystem in Deutschland 2010 bis 2020 – die gesellschaftliche Seite
     現代ドイツの農業システム 2010~2020年 – 社会的側面
     4.1 Geschichte
      歴史
     4.2 Das Wichtigste zur Agrarökonomie und Agrarpolitik 1950 bis 2000
      1950~2000年の農業経済・政策の要点
     4.3 Die heutige Betriebsstruktur
      現在の農業経営構造
     4.4 Arbeitskraft
      労働力
     4.5 Wirtschaft und Einkommen
      経済と所得
     4.6 Weiteres zur betrieblichen Situation
      経営状況のその他事項
     4.7 Agrarpolitik und Grundzüge der Agrarumweltpolitik 2015–2020
      農業政策・農業環境政策の基礎(2015~2020年)
     4.8 Technischer Zwang und gesellschaftliche Entwicklung
      技術的強制力と社会的発展
     4.9 Betriebliche Alternativen
      経営の選択肢
     4.10 Fordern, bekämpfen, schimpfen – Schuld an allem sind immer die anderen
      要求、批判、非難-「全ては他人のせい」
  5. Technisches Kernproblem I: die Artenvielfalt
     技術的中核課題①:生物多様性
     5.1 Das Problem
      課題
     5.2 Belege für den Artenrückgang und seine Verursachung
      生物多様性の減少とその原因
      5.2.1 Rote Listen der Pflanzen
       植物のレッドリスト
      5.2.2 Naturschutz der Europäischen Union – die FFH-Richtlinie
       EUの自然保護-FFH指令
      5.2.3 Vogelbeobachtung
       鳥類観察
      5.2.4 Vergleich früherer und heutiger Populationen bei Pflanzen und Nicht-Wirbeltieren
       植物・無脊椎動物の過去と現在の個体数比較
      5.2.5 Zusammenschau
       まとめ
     5.3 Artenreiche und schutzwürdige, heute zu knappe Biotope und Strukturen in der Kulturlandschaft
      多様かつ保護価値の高い、現在希少な生息地・景観構造
      5.3.1 Halbkulturlandschaft
       半自然的景観
      5.3.2 Traditionelle bäuerliche Nutzflächen
       伝統的農地
      5.3.3 Landschaftsstrukturen
       景観構造
     5.4 Folgerungen
      結論
  6. Technisches Kernproblem II: Stoffströme und Stickstoffbilanz
     技術的中核課題②:物質循環と窒素収支
     6.1 Etwas Erdgeschichte
      地球史
     6.2 Stoffe in Lebewesen und Pflanzenernährung
      生物内物質・植物栄養
     6.3 Stickstoffflüsse in der deutschen Agrarlandschaft
      ドイツ農村景観における窒素循環
     6.4 Effizienz des Proteinfutters und Außenhandel
      蛋白飼料の効率と貿易
     6.5 Umwelteffekte des Stickstoffs
      窒素の環境影響
     6.6 Landwirtschaft und Klimaschutz
      農業と気候保護
     6.7 Ergänzendes zum Phosphor
      リンに関する補足
     6.8 Abhilfen gegen Stickstoff- und Phosphorausträge
      窒素・リン流出の対策
      6.8.1 Fütterung
       飼料管理
      6.8.2 Wirtschaftsdünger
       畜産廃棄物利用
      6.8.3 Raumordnung und Reduktion der Tierbestände
       空間計画・家畜数削減
     6.9 Gesetzliche Regelungen – Düngegesetz und Düngeverordnung
      法的規制-肥料法・施肥規則
      6.9.1 Regelungen bis 2017
       2017年までの規制
      6.9.2 Die Novellen von 2017
       2017年改正
  7. Ergänzendes zu Sonderproblemen
     特別課題に関する補足
     7.1 Böden
      土壌
      7.1.1 Entstehung und Nutzung
       生成と利用
      7.1.2 Gefährdungen
       リスク
      7.1.3 Bodenbearbeitung
       土壌管理
      7.1.4 Fazit
       結論
     7.2 Pflanzenschutz und Alternativen
      植物保護と代替策
      7.2.1 Pflanzenkrankheiten, Resistenzbildung und Agrarchemikalien
       植物病害・耐性形成・農薬
      7.2.2 Abhilfen
       対策
      7.2.3 Fazit
       結論
     7.3 Das Rindvieh
      牛の飼育
      7.3.1 Bestände
       頭数
      7.3.2 Fütterung des Rindviehs
       牛の飼料
      7.3.3 Leistung und Tierwohl
       生産性と動物福祉
      7.3.4 Umweltwirkungen
       環境への影響
      7.3.5 Nutzungsmöglichkeit für traditionelles Grünland
       伝統的草地の利用
      7.3.6 „Extensive“ Rinderhaltung
       粗放的牛飼育
     7.4 Energiepflanzen
      エネルギー作物
      7.4.1 Energiebilanz Deutschlands und Stellung der Landwirtschaft darin
       ドイツのエネルギーバランスと農業の位置
      7.4.2 Anbauumfang von Energiepflanzen
       エネルギー作物の作付面積
      7.4.3 Vergleich von Aufwand und Ergebnis
       投入と成果の比較
      7.4.4 Beurteilung
       評価
      7.4.5 Entwicklungsmöglichkeiten
       今後の展開
     7.5 Der ökologische Landbau
      有機農業
      7.5.1 Ursprünge und Motive
       起源と動機
      7.5.2 Grundsätze
       原則
      7.5.3 Verbreitung in Deutschland
       ドイツでの普及状況
      7.5.4 Ackerbau im ökologischen Landbau
       有機農業の耕作
      7.5.5 Ideale und andere Betriebsformen
       理想と他の経営形態
      7.5.6 Weitere Düngungsfragen
       施肥の追加的課題
      7.5.7 Leistungen und Wirtschaftlichkeit
       成果と経済性
      7.5.8 Ökologischer Landbau und Naturschutz
       有機農業と自然保護
      7.5.9 Ökologischer Landbau und Ernährungssicherung
       有機農業と食料安全保障
      7.5.10 Warum kein Kompromiss?
       なぜ妥協できないのか
     7.6 Lebensstile – Ernährungsweisen
      ライフスタイル・食生活
      7.6.1 Geschmack versus Moral
       味覚と道徳
      7.6.2 Hoher Konsum tierischer Produkte – die heutige Situation
       動物性食品の高い消費-現状
      7.6.3 Reduzierter Konsum tierischer Produkte
       動物性食品の消費削減
      7.6.4 Vegetarismus
       ベジタリアン
      7.6.5 Veganismus
       ビーガン
      7.6.6 Fazit
       結論
  8. Ansätze zur Problembewältigung I: Politik, Planung, Recht und Verwaltung
     課題解決のアプローチ①:政策・計画・法・行政
     8.1 Landschaftsplanung und damit verwobene Rechtsquellen
      景観計画と関連する法制度
     8.2 Die Eingriffsregelung des Bundes-Naturschutzgesetzes
      連邦自然保護法の規定
     8.3 Agrarumweltpolitik
      農業環境政策
      8.3.1 Beginn
       開始
      8.3.2 Übernahme durch die EU
       EUによる導入
      8.3.3 Probleme
       課題
     8.4 Rückblick auf Ordnungsrecht und Agrarumweltpolitik
      法規制と農業環境政策の回顧
  9. Ansätze zur Problembewältigung II: Erfolge und Ideen, „Lichtblicke“
     課題解決のアプローチ②:成果とアイデア、「希望の光」
     9.1 LIFE
      LIFEプロジェクト
     9.2 Naturschutzgroßprojekte des Bundes („chance natur“ – Bundesförderung Naturschutz)
      連邦の大規模自然保護プロジェクト(「chance natur」)
     9.3 Biosphärenreservate
      生物圏保護区
     9.4 Das Nationale Naturerbe
      国立自然遺産
     9.5 Landschaftspflegeverbände und Biologische Stationen
      景観管理組合と生物学ステーション
     9.6 Stiftungen
      財団
     9.7 Wissenschaftliche Projekte: „100 Äcker für die Vielfalt“ und anschließende Gedanken
      科学プロジェクト:「多様性のための100の畑」等
     9.8 Verdienstvolle Einzelpersonen: das Wirken Wolfgang Schumachers in der Eifel
      功績ある個人:アイフェル地方のヴォルフガング・シューマッハ
     9.9 Denkanstöße und Konzepte
      提案と構想
      9.9.1 Gemeinwohlprämie des Deutschen Verbandes für Landschaftspflege
       ドイツ景観管理協会の公益プレミアム案
      9.9.2 Der Vorschlag des IFAB im Auftrag des NABU
       NABU依頼によるIFAB案
      9.9.3 Kostenschätzung für die Aufwertung der Agrarlandschaft
       農村景観向上の費用試算
     9.10 Fazit: Verallgemeinerung der „Lichtblicke“
      まとめ:「希望の光」の一般化
  10. Der Wald
     森林
     10.1 Geschichte
      歴史
     10.2 Der heutige Wald
      現代の森林
      10.2.1 Grunddaten und Fachbegriffe
       基本データ・用語
      10.2.2 Bewirtschaftung und Entwicklungen
       経営と展開
      10.2.3 Alte und neue Gefährdungen
       旧来・新たなリスク
     10.3 Wald als Teil der Kulturlandschaft
      景観の一部としての森林
      10.3.1 Der Streit um seine „Natürlichkeit“
       「自然性」をめぐる論争
      10.3.2 Ursachen relativ pfleglicher Waldbewirtschaftung
       比較的保全的な森林管理の要因
      10.3.3 Baumartenzusammensetzung
       樹種構成
     10.4 Wachstum, Nutzung und Klimawirksamkeit des Waldes
      森林の成長・利用・気候効果
      10.4.1 Waldwachstum
       成長
      10.4.2 Stoffliche Nutzung des Holzes und Außenhandel
       木材利用・貿易
      10.4.3 Energetische Nutzung des Waldes
       エネルギー利用
      10.4.4 Aktuelle Klimaschonung durch den Wald
       森林による気候保全
      10.4.5 „Laubholz-Irrweg“?
       広葉樹化は誤りか?
     10.5 Wald und Wohlergehen
      森林と福祉
     10.6 Wald und Naturschutz
      森林と自然保護
      10.6.1 Rote Listen der Gefäßpflanzen
       維管束植物のレッドリスト
      10.6.2 Besonders geschützte Biotope nach §30 BNatSchG
       連邦自然保護法§30の特別保護生息地
      10.6.3 FFH-Richtlinie im Wald
       森林でのFFH指令
     10.7 Naturwälder und Nationalparke
      自然林・国立公園
      10.7.1 Naturlandschaften und deren Reste
       自然景観とその残存
      10.7.2 Naturschutzwert ungenutzter Wälder
       未利用林の保護価値
      10.7.3 Nationalparke
       国立公園
     10.8 Einiges zur Ökonomie des Waldes
      森林経済について
  11. Fazit – das gesellschaftliche Kernproblem
     結論-社会的中核課題
     11.1 Rückblick auf die beiden technischen Kernprobleme der Landwirtschaft
      農業の2つの技術的課題の回顧
     11.2 Agrarpolitik
      農業政策
     11.3 Naturschutzpolitik
      自然保護政策
     11.4 Das Selbstverständnis der Landwirte
      農家の自己理解
     11.5 Flankierendes und Finanzierung
      補助措置と資金調達
     11.6 Was kann die Zivilgesellschaft tun?
      市民社会に何ができるか
  12. Anhang zu Kap. 3 und Kap. 6
     第3章・第6章補遺
     12.1 Tabellen zu Inhaltsstoffen und Energiegehalten, Ernte- und Futterstatistik – Anhang A
      成分・エネルギー含量・収穫・飼料統計(付録A)
     12.2 Daten zur Tierernährung – Anhang B
      家畜栄養データ(付録B)
      12.2.1 Bedarfsnormen
       必要量基準
      12.2.2 Energieeffizienz ausgewählter Erzeugungsprozesse
       生産工程のエネルギー効率
     12.3 Daten zur Ernährungswirtschaft – Anhang C
      食糧経済データ(付録C)
     12.4 Daten zum Stickstofffluss – Anhang D
      窒素循環データ(付録D)
    Glossar
    用語集
    Literaturverzeichnis
    参考文献
    Sachverzeichnis
    事項索引

第1章「Einleitung(序論)」と第2章「Kurze Geschichte der Landschaft in Mitteleuropa(中欧における景観の略史)」は、本書全体の基調を定める導入部として、ドイツおよび中欧の「文化的景観(Kulturlandschaft)」という概念の成立・変遷・意味、そしてその現代的課題を歴史的・思想的文脈とともに掘り下げている。この二つの章は、読者に「人間と景観」の長い関係史とその複雑さを思い起こさせ、同時に現代の農業や森林利用、景観保全を考えるための視座を与えてくれる。

まず第1章では、著者ハンピッケが本書執筆の意図を明確に述べている。彼によれば、現代のドイツ、さらには中欧に広がる田園風景や森林、牧草地は、いずれも「人間の手による歴史的産物」であり、決して手つかずの自然ではない。むしろ数千年にわたる人類の営為が生み出した、極めてダイナミックかつ多層的な「人工自然」であると言える。農耕や牧畜、林業の発展、人口の増減、戦争や社会変動、技術革新など、さまざまな要因が絶えず景観を変容させてきた。本書の目的は、こうした「人間と景観の交錯の歴史」を踏まえつつ、現代社会が直面する諸問題──生物多様性の喪失、気候変動への脆弱性、農業や林業の集約化と小規模景観要素の消滅、市民社会の疎外など──を分析し、「持続可能な文化的景観」とは何か、そしてそのために市民一人ひとりがどう向き合うべきかを問う点にある。

本章の印象的なポイントは、著者が「文化的景観の維持・再生はもはや農家や林業家だけの問題ではなく、全社会的課題である」と明言していることだ。都市住民も消費者として、また市民として、自らの暮らしと景観・環境の関係に責任を持たなければならない。景観が単なる“背景”や“資源”として語られるのではなく、「人間の暮らし・文化・経済活動が可視化された場」として認識されるべきだという認識が、本書全体の基調に通底している。加えて、政策や法制度、科学技術の発展、経済構造の変化といったマクロな力学が景観に及ぼす影響と、市民社会の自発的な動き(NGOの活動や地方のイノベーションなど)が交錯する構図を読み取ることができる。序論は、現状認識と問題提起が巧みに絡み合い、読者の思考を現代社会の深層へと誘う「序曲」として機能している。

続く第2章は、「中欧の景観史」を氷河時代以降の長大なスパンで描き出す壮大な時間的パノラマである。この章では、まず氷期の終焉により森林や湿地が広がった自然的景観が、やがて狩猟採集民の移動や動物の絶滅、新石器時代の農耕・牧畜の導入とともに、徐々に人間の手で改変されていく過程が丁寧に描写されている。狩猟採集社会は一見“自然と共生”しているかのようだが、実際には大型動物の絶滅など、すでに環境に大きな影響を及ぼしていたことが示される。そして、農耕牧畜の技術が南東ヨーロッパから波状的に伝播し始めると、森は開かれ、耕地や牧草地が生まれ、焼畑農法や輪作、さらには灌漑や溜池の造成などによって景観は飛躍的に多様化していく。

こうした技術革新の波は、ローマ時代において一つの頂点を迎える。ローマ人による道路・水道・大規模農園の整備は、農村景観を一変させた。だが、ローマ帝国崩壊とともに多くのインフラは廃れ、再び森が復活する時期もあった。中世には荘園制度や共同利用地(Allmende)、三圃制の発展、人口増加による新規開墾が進む一方、疫病や戦乱で人口が減ると耕地の放棄や森の再生も見られる。景観は決して直線的な「開発」や「進歩」のみではなく、むしろ膨張と収縮、利用と放棄、自然回復と再度の改変というサイクルを繰り返してきたのである。

さらに近世以降、啓蒙時代や科学革命の進展とともに、土地測量や地籍整備、灌漑・排水・堤防建設など、より体系的かつ科学的な景観改変が始まる。産業革命は、都市への人口集中と農村の効率化、鉄道や道路網の発達、さらに工業用原料やエネルギー源としての森林や泥炭地の集中的利用をもたらした。19世紀末から20世紀にかけては、農業技術の進歩(品種改良、機械化、化学肥料・農薬の導入)が一層進み、景観の画一化と「生産性至上主義」が顕著となる。その一方で、ロマン主義や初期の自然保護運動も生まれ、景観の価値を再発見し、保護・美化を志向する動きが起きた。

戦後ドイツにおける土地改革、農地整理、集団化、そしてEU統合下での共通農業政策(CAP)は、農村景観のさらなる合理化・集約化を促した。その結果として、伝統的な「小規模モザイク景観」や多様な生息地要素が急速に減少し、今日では「生物多様性の危機」や「景観の単調化」という深刻な問題に直面している。第2章の大きな功績は、このような長期的変動の中で、どのように自然と人間の相互作用が働き、多層的な景観が生まれ、変化してきたのかを、科学的知見と文化史的洞察を交えて論じている点にある。

この章で著者は、景観が決して「静的な背景」ではなく、人間社会の動的な変化を映し出す「鏡」であり、「記憶の場」でもあることを繰り返し強調する。どの時代も「唯一無二の自然」や「理想の農村」があったわけではなく、常に経済・社会・政治・技術の相互作用が景観に影響を与えてきた。さらに、現代の我々が「伝統的景観」と感じる農村風景も、実は20世紀に入ってからの合理化や景観美化政策の産物であり、決して永遠不変のものではないことも示される。この「歴史的相対化」の視点は、景観保全の議論において極めて重要な意義を持つ。すなわち、「何を守るべきか」「どの姿が“望ましい景観”なのか」という問い自体が、歴史的・文化的・社会的に相対的なものであることを、読者に気づかせるからである。

総じて第1・2章を通じて著者が投げかけるのは、「現代の我々が享受している田園・森林景観は、途方もない長い歴史と人間社会の複雑な営みの産物であり、その“変化の歴史”を抜きにして、持続可能性や景観の将来を語ることはできない」という根本的な問題意識である。文化的景観の価値を守るには、単なるノスタルジーや“自然回帰”志向ではなく、歴史的知見に基づく多角的な理解と、現代社会の課題に即した合理的・民主的な合意形成が必要不可欠である。そのためにも、まずは景観が歩んできた長大な歴史を知ることが、持続可能な未来をデザインするための第一歩である、と著者は訴えている。

両章は、通読すればするほど「人と自然の共生」の複雑さを実感させ、現代的課題に安易な解決策や感情的な反応ではなく、地に足のついた長期的ビジョンと冷静な対話が必要であることを示唆している。本書が「都市の読者」を主な対象としながらも、専門家や農業・林業従事者、政策担当者にとっても多くの学びと示唆を与える理由は、まさにこの「歴史的思考」「複合的視野」「市民社会への呼びかけ」の三点にあるだろう。文化的景観をめぐる現代社会の葛藤と、その背後に横たわる長大な歴史を描いたこの導入部は、本書全体の基調を決定づける骨太な問題提起となっている。


第3章「Das Agrarsystem in Deutschland 2010 bis 2020 – die technische Seite(現代ドイツの農業システム 2010〜2020年 ― 技術的側面)」および第4章「Das Agrarsystem in Deutschland 2010 bis 2020 – die gesellschaftliche Seite(現代ドイツの農業システム 2010〜2020年 ― 社会的側面)」では、現代ドイツ(中欧)農業の実態が多面的かつ批判的に分析される。ここでは、先の歴史章で明らかにされた「変化し続ける景観」が、21世紀のグローバル化・産業化・消費社会の中でどのような構造的特徴・課題を抱えているかが、数量的データと現場のリアリティを交えて描かれている。

第3章では、まず中欧の自然条件、すなわち温暖湿潤な気候、肥沃な土壌、多様な地形が「農業生産における特権性」をもたらしていることが強調される。これは、ドイツ農業の生産力・収益性・競争力の大きな基盤となっており、世界でもトップクラスの農業国家としての地位を支えている。だが、その背後には、急速な技術革新と生産構造の大転換が存在する。まず目につくのは、農地利用の大規模化・集約化であり、伝統的なモザイク型景観はほぼ消滅し、広大な単一作物地帯(小麦・トウモロコシ・菜種など)が目立つようになった。

農地の利用形態を見ると、耕作地・恒久草地・多年作物(果樹・ブドウなど)が精緻に区分されている。特に注目すべきは、恒久草地(牧草地)の減少と、その一部がトウモロコシなどのエネルギー作物(バイオガス向け)に転用されている事実である。これは、EUの再生可能エネルギー政策やバイオマス需要の高まりと密接に関連しており、従来型の家畜生産や草地生態系が根本から再編成されつつあることを意味する。

家畜飼育に関しては、牛・豚・鶏といった主要畜種の大規模化・専門化・集約化が進行しており、工業的な畜産経営が「標準」となりつつある。著者はこの構造変化の背景に、経済効率の最大化と市場競争の激化があると指摘するが、同時にそれが動物福祉や環境負荷の深刻な問題を生み出していることも批判的に述べている。飼料の大部分が輸入大豆やトウモロコシに依存している点も、地元生態系やグローバルな資源循環の観点から課題視される。

ドイツ農業の「生産構造」は、経営単位の大規模化(法人化・資本集約型経営)と少数化(農家戸数の減少)、機械化・デジタル化・自動化の進展が著しい。これらは生産効率の向上とコスト削減に寄与しているが、一方で農村の雇用縮小や地域社会の空洞化といった負の影響も顕著である。国際的には、ドイツはEU域内でも有数の農産物輸出国であり、グローバルな市場ネットワークと不可分な関係にある。だが、国内自給率や消費構造にも変化が見られ、消費者の嗜好や環境意識の高まり、輸入農産物への依存拡大など、多様なダイナミズムが共存する。

第3章の結論は、「現代ドイツ農業は、高度な技術力と市場競争力を備えつつも、その根底に複雑な社会・環境的トレードオフを抱えている」という事実に集約される。効率化・大規模化によって国際競争力は高まったが、その反面、生態系の単純化、生物多様性の損失、資源循環の歪み、農村社会の衰退など、数多の問題が顕在化している。著者は、「生産性至上主義」だけでは持続可能なKulturlandschaft(文化的景観)は維持できないと警告し、科学技術と社会的価値の新たな調和点を模索する必要性を強調している。

続く第4章では、同じ現代農業を「社会的側面」から掘り下げる。まず戦後から2000年までの農業経済・農政の変遷が整理され、冷戦期の土地改革・農地整理・機械化・EU統合後の共通農業政策(CAP)と、その変化に翻弄された農家・農村社会の姿が描かれる。今日の農業経営は、少数の大規模農家と多数の零細・兼業農家に二極化している。専業農家は法人化・設備投資・国際市場対応に注力し、兼業農家や小規模農家は多角化(グリーンツーリズムや直販、エコ農業など)や副業化で生き残りを図っている。

農業の労働力も劇的に減少しており、機械化や労働生産性の向上が雇用縮小を加速させた。農家の高齢化と後継者難も深刻であり、農村コミュニティの維持・存続に大きな課題を残している。農業所得は市場価格や補助金政策に大きく依存しており、農業そのものだけでは十分な収入を確保できないケースが多い。そのため、政策や補助金、環境プログラム(たとえばアグリ・エンバイロンメンタル・スキーム)が農家の経営戦略と密接に結びついている。

第4章では、農業政策・環境政策の歩みも詳細に検証される。EUのCAP改革やドイツ連邦・州政府による農業環境政策の変遷は、「生産性と環境保全」「自由市場と規制」のバランスを巡る葛藤を示している。政策の意図と現場の実態の乖離、政策効果の不均衡、ロビイングや既得権益の影響など、農業・景観保全政策の難しさが生々しく描かれている。

農村社会の変化は、「農地と景観の管理主体の減少」「農村コミュニティの機能不全」「地域間格差の拡大」という形で現れ、持続可能な景観保全にとって大きなリスクとなっている。著者は、「農村の危機」は農家や農村だけの問題ではなく、都市と農村の新たな関係性、すなわち都市住民・消費者・市民社会による支援・連帯・参加が不可欠であることを指摘する。都市と農村の“分断”を乗り越え、食や景観、生物多様性を巡る価値観・選択・責任を社会全体で分かち合う仕組みの構築が求められている。

第3・4章の意義は、現代ドイツの農業・景観を、単なる生産システムや政策対象としてではなく、「多元的な社会構造と歴史的変動の中で揺れ動く現場」として描き出した点にある。効率と多様性、経済性と持続性、農村と都市、政策と現場──そのいずれもが葛藤し、折衷し、変化し続ける「動的均衡」の只中にあることを、豊富な実証データと現場の実感で示している。著者は、こうした複雑な現実を冷静に分析しつつ、「新たな景観・農業モデル」を市民社会の創造力と連帯によって模索する必要性を強く訴えている。


第5章「Technisches Kernproblem I: die Artenvielfalt(技術的中核課題I――生物多様性)」と第6章「Technisches Kernproblem II: Stoffströme und Stickstoffbilanz(技術的中核課題II――物質循環と窒素収支)」は、現代ドイツのKulturlandschaft(文化的景観)が直面する「二大技術的危機」ともいうべき本質的な問題を、科学的根拠と社会的インパクトの両面から論じている。これらの章を通読すると、21世紀の景観・農業・林業政策が直面する現実の「重さ」と、「転換」の困難さ、そしてその中でも希望を見出そうとする著者の静かな熱意が伝わってくる。

第5章はまず、生物多様性の喪失がいかに急激かつ深刻な事態であるかを、豊富なデータと具体的な事例で明らかにする。著者は、20世紀後半から21世紀初頭にかけての農業構造の変化――モノカルチャー化、草地・小林・湿地等の景観要素の消滅、農薬や除草剤・肥料の大量使用――が、植物・動物・昆虫・土壌生物に至るまで、農村環境の全生物群集の衰退を引き起こしていると強調する。とりわけ「Rote Listen(レッドリスト)」に挙げられる絶滅危惧種の増加や、EUのFFH指令(生息地・生物種保護指令)に登録された保全対象生息地の減少は、社会的な危機意識と直結している。

また、かつての「Halbkulturlandschaft(半自然的景観)」――つまり伝統的な粗放型農牧地、湿地、雑木林、用水路、石垣、小規模耕作地など――は、極めて高い生物多様性を維持するコアとなっていた。だが、大規模な農地集約や土地改良政策によって、こうした小規模構造が急速に消滅した。その結果、多くの動植物が生息地を失い、昆虫・鳥類・草本植物の個体数激減や生態系機能の脆弱化が進行した。著者は「かつては普通種だった存在が、いまや絶滅の危機に瀕している」という現実を、農業だけでなく社会全体の問題として捉え直す必要があると提言している。

一方で、近年の研究・市民科学(バードウォッチング、植物観察など)によって、生物多様性危機への社会的関心は高まりつつある。だが、現行の保護政策や補助金制度は、しばしば「形式的保護」に留まり、根本的な土地利用変革を促すには不十分であるとの批判も提示される。著者は「生物多様性は景観の装飾品ではなく、社会・経済・文化を支える基盤的価値」であり、その維持は全社会の喫緊の責務であると強く訴える。科学的エビデンスの提示と社会的意味付けを同時に行う筆致は、本書の特徴的なスタイルである。

第6章は「窒素・リンなどの物質循環の破綻」が、農業・景観のみならず、地球規模の環境問題の根幹にあることを詳細に解説する。著者は、まず地球史的スケールでの物質循環――大気、土壌、水、動植物――の相互作用とバランスを論じ、その中で農業という人為的活動がいかに極端な「物質流の過剰」を引き起こしてきたかを明らかにする。とくに、現代農業は「外部(グローバル市場)からの大量窒素投入」に依存し、その結果として、地下水や河川の富栄養化、土壌の劣化、気候ガス排出(N₂Oなど)といった深刻な環境悪化を招いている。

ドイツ農業は、化学肥料と集約的畜産を組み合わせた高効率生産を特徴とする。だが、これに伴う窒素の投入量は、生態系の許容量をはるかに超えており、「環境への窒素流出」は社会的コストの増大(飲料水浄化、漁業被害、気候変動対策等)につながっている。特に畜産由来の糞尿処理・飼料の輸入・リン資源の枯渇などは、持続可能な農業経営の根本的な制約となりつつある。著者は、畜産・飼料生産・化学肥料利用の国際的連関(たとえば南米の大豆輸入)にも注目し、ドイツ農業が「グローバルな窒素・リン収支危機」の一翼を担っている事実を直視している。

こうした課題への「解決策」として、著者は飼料効率の向上、家畜頭数の抑制、精密農業(Precision Farming)の導入、輪作や緑肥の活用、法的規制(Düngegesetz, Düngeverordnung等)による肥料管理強化、地域循環型資源管理、そして食生活(特に動物性タンパク質消費)の見直し等を提案する。だが、これらの施策は単独では不十分であり、農業政策・消費者行動・市民社会の合意・経済的誘因が一体となって進められる必要性が強調される。

加えて、著者は現行の政策や規制の限界――すなわちロビイングや短期的経済利益、政策実施の不均衡、農家と社会の認識ギャップ――にも鋭く言及する。現場での創意工夫と科学的エビデンス、政策的な後押し、市民参加が三位一体となって、初めて物質循環の「負のスパイラル」から脱却し得るとのビジョンを示している。

この2章を通じて強く感じられるのは、「持続可能な景観・農業の実現には、もはや部分最適や一分野の努力では限界であり、技術・政策・社会・文化の総合的なイノベーションが不可欠である」というメッセージである。著者は生物多様性と物質循環という二大基盤の危機を、単なる「エコロジカルな話題」に留めず、ドイツ社会全体の福祉・経済・文化の未来と直結した構造問題として描き出す。そして、現代社会の選択が、未来世代にとってどのような景観・社会を残すのか――この本質的問いが、両章の底流を貫いている。


第7章「Ergänzendes zu Sonderproblemen(特別課題に関する補足)」と第8章「Ansätze zur Problembewältigung I: Politik, Planung, Recht und Verwaltung(課題解決のアプローチI――政策・計画・法・行政)」では、Kulturlandschaft(文化的景観)をめぐる現代的課題の“現場の複雑性”と、制度的・政策的な解決への模索が、具体的かつ多角的に展開される。この両章は、単に技術論や自然科学的知見にとどまらず、土地利用をめぐる社会・経済・法・政治のせめぎあい、さらには制度設計と現場実践のギャップまでを描き出し、現代ドイツ農業・景観管理の根本的な困難と、可能性の萌芽を同時に提示する。

第7章は「補論」という位置づけだが、実は現代農村・農業・景観管理の現場が直面する“実践的・具体的な障害”に光を当てている。まず土壌(Boden)の生成と利用、特に現代の集約農業による物理的・化学的劣化、過剰耕作や侵食、土地の“死”のリスクが取り上げられる。これに関連して、農薬(Pflanzenschutz)、病害・耐性・環境毒性の問題も掘り下げられ、科学的進歩と環境・健康リスク管理のせめぎあいが描かれる。著者は、現場の農家が抱える経済的圧力や政策対応の難しさを考慮しつつも、持続可能な農業のためには土壌・病害管理の抜本的見直しと、多様な「非化学的対策」「伝統知と現代技術の統合」が不可欠であると主張する。

牛(Rindvieh)の飼育についても、環境負荷や動物福祉、伝統的草地の維持活用、新たな粗放的飼養(Extensive Rinderhaltung)など、畜産の多面的役割と社会的論争が扱われる。特に近年は、食肉消費や家畜頭数削減、気候変動との関連で畜産業の転換が求められており、著者は科学と倫理、経済性の交点での“共通解”を模索すべきだと提言している。

また、エネルギー作物(Energiepflanzen)の拡大による景観・生態系への影響、農業とエネルギー政策の複雑な絡み、有機農業(ökologischer Landbau)の現状・理念・経済性、さらに消費者のライフスタイルや倫理(ベジタリアン、ビーガンなど)まで幅広く論じられる。著者は、「生産・消費・倫理・経済」が相互に規定し合う複雑な場として農村を捉え、特定の解を示すよりも、多様な選択肢とそのトレードオフを冷静に示している点が印象的である。

第8章では、こうした複雑で多様な現場の課題に対し、政策・計画・法・行政の枠組みがどう関わり、どのように課題解決を志向しているかが整理される。まず景観計画(Landschaftsplanung)の歴史と制度、連邦自然保護法(BNatSchG)、EUのFFH指令、アグリ・エンバイロンメンタル・ポリシー(農業環境政策)の導入過程が概説される。著者は、法規制や政策が多層的かつ断片的であり、実効性と現場の受容に乖離があることを繰り返し指摘する。農業政策(補助金、環境給付、経営安定策)と環境政策(保全義務、規制、アグロエコロジー推進)の連携・統合は進展しつつあるが、現場では規制疲れ、政策不信、行政の調整力不足、さらにはロビイングによる形骸化といった障壁が根強い。

一方で、著者はこうした制度的限界を批判するだけでなく、「農家・行政・市民社会の対話と協働」による新たな景観管理モデルの萌芽にも希望を見出している。政策や計画が「上からの命令」ではなく、現場の多様な主体との合意形成・実践的パートナーシップに転換していくこと――これこそが今後の持続可能な景観管理・農業の核心である。具体的には、地方自治体や景観保全団体、地域住民、消費者組織などが共に政策設計・実践に関わる協働の仕組み(パートナーシップ、協議会、参加型計画)の重要性が強調される。

第8章終盤では、制度・政策の「限界と可能性」を静かに見つめつつ、真の転換には“社会全体の価値観の変容”と“現場からの創造的実践”が不可欠であると結論づける。法や政策は「道具」に過ぎず、その背後にある市民社会の成熟と、農家・住民・行政の連帯と創発こそが、未来のKulturlandschaftの担い手となる――この含意は、現代日本の農村・農業・景観政策を考える読者にも深い示唆を与えてくれる。


第9章「Ansätze zur Problembewältigung II: Erfolge und Ideen, ‚Lichtblicke‘(課題解決のアプローチII――成果とアイデア、「希望の光」)」と第10章「Der Wald(森林)」は、本書の中盤以降で著者が強調してきた「現代農村・景観管理の危機」に対して、すでに社会の各層で取り組まれている多様な解決策、試行錯誤、そしてそこから生まれた“希望の兆し”を丹念に拾い上げる構成となっている。特に第9章は、数々の実践事例を丁寧に追い、ドイツおよびヨーロッパにおける持続可能な景観再生の“具体的な動き”を詳細に紹介することで、「失望」と「希望」、「批判」と「創造」の弁証法を浮き彫りにしている。

第9章の冒頭では、まずEUやドイツ国内で実施されてきたLIFEプロジェクトの意義と実績が取り上げられる。LIFEは欧州連合が推進する最大級の環境助成プログラムであり、生物多様性保全、景観再生、湿地や草地の回復など幅広い分野で革新的な取り組みを後押ししてきた。たとえば河川氾濫原の再生、広域ビオトープネットワーク構築、伝統的農業景観の維持など、多くのモデルプロジェクトが“地域主体×科学×政策”の協働で進行している。これらは単なる環境保護活動に留まらず、地域社会の活性化や雇用創出、市民参加型の景観デザインへと波及効果をもたらしている。

続いて連邦政府の「Naturschutzgroßprojekte des Bundes(連邦大規模自然保護プロジェクト)」や「Biosphärenreservate(生物圏保護区)」など、国主導の政策的フラッグシップ事業が紹介される。たとえば、「チャンス・ナトゥア(chance natur)」による大規模な湿地・低地草原の再生、森林と農地の複合的景観保全、野生動物の生息地回復などは、数十年単位で継続的に評価・修正を重ねてきた成果だと評価されている。また、「国立自然遺産(Nationales Naturerbe)」の指定によって、公益的価値の高い森林や旧軍用地などが保護・再生の対象となり、官民連携での管理が広がっている。

現場実践としては「Landschaftspflegeverbände und Biologische Stationen(景観管理団体と生物学ステーション)」の活動が象徴的である。これらは行政、農家、NPO、市民、科学者がフラットに連携する独自の協働体制を築き、多様な土地利用者の利害を調整しながら景観保全や新しい農業のモデルを現場で生み出してきた。さらに財団による資金支援、科学プロジェクト(例:「多様性のための100の畑」キャンペーン)、個人の先駆的取り組み(Eifel地方のシューマッハ氏など)も、現場の“希望の光”として描かれている。

政策面では「Gemeinwohlprämie(公益プレミアム)」や「NABU(ドイツ自然保護連盟)」とIFABの試算による新しいインセンティブ設計が議論されており、「農家の自発的なエコ実践を金銭的にも社会的にも正当に評価する枠組み」への転換が求められている。これには政策・経済・社会・科学の壁を横断した対話が不可欠であることが強調される。

第9章の最後には、「光明(Lichtblicke)」の一般化――つまり小さな成功例をいかに全社会的なモデルに拡大するか、という課題が提示される。著者は、これらの成功や創意工夫を単なる“例外”に終わらせず、社会全体の価値転換や市民参加を通じて「新しいKulturlandschaft」の未来像を創造する重要性を説く。失望と希望、批判と賞賛が絶妙なバランスで同居する筆致は、まさに現場のリアリズムと未来志向が両立する本書の魅力を端的に表している。

第10章は、ドイツ人の精神文化・歴史・経済・生態の全てに深く根付いた「森林(Wald)」に焦点を当てている。著者はまず、森林の歴史を先史時代から現代まで辿り、原生林から里山、計画的造林、戦後の復興林、持続可能経営の歴史をたどる。現代ドイツの森林は、基本的に人工的・半自然的な管理林が大半を占めるが、同時に多様な所有形態(国有・州有・私有・協同組合など)と多様な利用形態(木材生産、レクリエーション、生態系保全など)が共存している点が重要である。

現代の森林経営は「多機能性」が要請されている。すなわち、単なる木材生産だけでなく、生物多様性・気候保全・水資源管理・土壌保護・市民の福祉・文化的価値など、さまざまな社会的ニーズに応えることが求められている。その一方で、気候変動の進行や生物多様性危機、外来種の侵入、森林火災、病害虫など「新たな脅威」も深刻化している。著者は、近年の乾燥化や風倒被害、広葉樹導入の是非などをめぐる専門家・市民の議論も多角的に紹介し、「持続可能な森林経営」は絶えざる調整とイノベーションの産物であることを指摘する。

森林を巡る経済的側面も鋭く分析される。木材市場のグローバル化や再生可能エネルギー政策の影響、輸出入のダイナミズムとともに、林業経営の収益性や地域経済への波及効果、そして「森林の非経済的価値(レクリエーション・自然教育・精神文化)」が強調される。ドイツでは森林散策や“Waldbaden(森林浴)”が国民的習慣として定着しており、森林が人間の健康・幸福・コミュニティ形成にも不可欠な役割を果たしていることが、最新研究を交えて紹介される。

自然保護との関係では、保護林・ナショナルパーク・野生生物保護区の意義、FFH指令下での指定区域と現場の合意形成、未利用林の生態価値などが論じられる。「Naturlandschaften(自然景観)」や「Urwälder(原生林)」の復元・保護の議論もあり、国立公園制度や市民運動の成功例が具体的に紹介されている。森林経済の章では、従来の木材中心主義を乗り越えた「複合的・多面的価値観」への転換が不可避であることが示唆される。


第11章「Fazit – das gesellschaftliche Kernproblem(結論――社会的核心課題)」と第12章「Anhang zu Kap. 3 und Kap. 6(第3章・第6章補遺)」は、本書『Kulturlandschaft – Äcker, Wiesen, Wälder und ihre Produkte』の締めくくりとして、著者ハンピッケが全体を俯瞰しながら、現代ドイツ社会が直面する文化的景観・農業・林業の“本質的な困難”と、その中で求められる社会全体の意識転換・協働・創発の重要性を再確認する章である。特に第11章は、各章で丹念に掘り下げてきた課題・解決策・希望を統合的に振り返りつつ、未来への課題を明快に描き出している。

第11章の冒頭では、第5章・第6章で論じられた「生物多様性危機」と「物質循環の破綻」という二つの技術的コア課題を再度取り上げる。著者は、これらの課題はもはや専門家や現場の農家・林業家だけでは解決しきれず、社会全体の合意形成や価値転換、市民の行動変容が不可欠だと強調する。つまり、Kulturlandschaftの維持・再生は、農業・林業という特定セクターの“業界内努力”では限界があり、都市住民や消費者、行政、NPO、政策担当者など多様な主体が「自分ごと」として関わる“社会的協働課題”に昇華しているという認識である。

農業政策(Agrarpolitik)については、ドイツおよびEUの共通農業政策(CAP)がたどってきた歴史的変遷と、直面するジレンマ――すなわち「生産性の維持」と「持続可能性・公益性」のバランス――が冷静に評価されている。著者は、補助金政策や生産調整、環境政策の転換が一定の成果を挙げつつも、現場の多様な課題には十分に応えきれていない現実を指摘し、「公益インセンティブ(Gemeinwohlprämie)」や「成果志向型政策」など新しい政策ツールへの移行が必要だと提案する。

同時に、自然保護政策(Naturschutzpolitik)は、法制度・規制・保護地域の拡大など“トップダウン型”の取組と、地域コミュニティや市民参加、ボトムアップ型の実践との「統合的連携」がカギになると論じられる。多様な利害・価値観・規模の違いを調整しつつ、創発的な協働・実践を支える“場”のデザインが、今後のドイツ社会の大きな課題となる。

第11章の特徴は、「農家の自己理解(Selbstverständnis der Landwirte)」への深い洞察にある。著者は、現代農家が単なる“生産者”から“公益の担い手”へと役割変容する必要性を説く一方、伝統やアイデンティティ、現場のリアリズム・誇りといった心性の変化の重要性を強調する。社会が「農家=環境破壊者」「補助金依存層」と一面的にみなすのではなく、農家自身が景観・生物多様性・地域コミュニティの守り手として社会的承認・経済的安定を得られる仕組みが不可欠であると訴える。

さらに、政策や補助金の財政的裏付け、民間資金・社会的投資、消費者運動など多様な「フランク(flankierend)」な支援手段を柔軟に組み合わせる必要性も示唆される。「何ができるか(Was kann die Zivilgesellschaft tun?)」という設問には、「市民社会の成熟こそが変革の条件である」と明確に答え、市民一人ひとりが“他人事”から“自分ごと”へと意識を切り替え、持続可能な農村・森林・景観の未来に主体的に関わる重要性を強く呼びかけている。

第12章は付録的位置づけであり、第3章・第6章で触れられた農業・物質循環・動物栄養・土壌・収穫・エネルギー効率・窒素流出などの詳細な統計データや補足表、専門用語集を収めている。これは実務家や研究者、政策担当者にとって有益なリファレンスであるが、本書の本質は第11章までの「社会的実践・対話・合意形成のプロセス」にあることは変わらない。

全体として本章群は、学術的分析・制度論・現場実践を統合し、社会全体への問いかけへと昇華した「実践的フィナーレ」である。著者の根本的メッセージ――「Kulturlandschaftは社会的合意と協働の“鏡”であり、その未来は私たち一人ひとりの選択と行動にかかっている」――が、静かで力強く、読者の胸に響く結末である。

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kiyoshichiya
kiyoshichiya合同会社喜代七 / 喜代七屋 Kiyoshichi LLC / Kiyoshichiya freelance
Agriculture, Forestry, Fisheries Management Consultant & Fieldwork Coodinator.

We are working to live our LIFE that can be enjoyed for seven generations. Utilizing my know-how and experience, I am working as a professional consultant mainly in Japan and Germany. My hobbies are Mountaineering, Violin, Academic Learning & Fieldwork.
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