ベリー不作の森を歩く:ミュンヘン近郊で何が起きているのか?

今年も7月になり、楽しみにしていたベリー狩りのために近所の森へと足を運びました。森の中をゆっくり歩きながら、足元や低い枝先をよく探してみると、確かにブルーベリーやラズベリーの粒そのものは見つかります。しかし、どれも例年に比べて実が小さく、色づきもまばらで、触れるとまだ硬いものばかりです。場所によっては、青いまま萎れてしまったベリーや、成長が止まったままの粒も多く見かけました。

森で出会った地元のベリー好きの方も、「粒はあるんだけど、全然大きくならない。今年はどうしてだろうね」と首をかしげています。いつもの年なら、甘く熟したベリーを夢中で摘み取る子どもたちの声が森に響きますが、今年はかごの中もなかなかいっぱいになりません。

この森でいったい何が起きているのでしょうか。ベリーが実をつけても、思うように成長できていない背景には、さまざまな自然環境の変化と人間社会の影響が絡んでいるようです。本記事では、今年のベリー不作の現場から、その主な原因と、私たちがこれからできることについて考えてみたいと思います。


森の乾燥がベリー不作を招く

こうした異変の背景には、近年ますます顕著になっている「森の乾燥(Waldtrockenheit)」があります。とくにここ数年、春から初夏にかけての降水量が平年より大幅に少なく、バイエルン州やミュンヘン近郊の森林では長期間にわたって土壌の乾燥が続いています(LfU Bayern 指標)。私が歩いた森でも、足元の落ち葉をかき分けると、例年よりはるかに乾いた土が顔を出し、しっとりとした湿り気がほとんど感じられませんでした。

ベリー類、とくにブルーベリーやラズベリーは、浅い根を持つため乾燥にとても弱い植物です。春先から十分な雨が降らなかった場合、若芽や花芽の形成が妨げられ、花の数が減り、実が大きくならなくなります(LWF Bayern)。さらに、果実が肥大・成熟するためには生育期間を通じて安定した水分供給が必要ですが、今年のように春から土壌が乾いていると、粒が小さいまま色づかず、成長が止まってしまいます。

実際にバイエルン州立森林研究所(LWF)による近年の調査でも、春季の降雨量とベリーの結実量には明確な相関があることが示されています。とくに2022年、2023年のような春の干ばつの年は、ベリーの不作報告が各地で相次ぎました(LWF-Publikation)。

乾燥と植物の生理的ストレス

森が乾燥していると、ベリーだけでなく森全体の生態系にもさまざまな影響が出ます。乾燥した環境下では、植物は蒸散を抑えるために気孔を閉じ、光合成効率が低下します。その結果、実や葉に十分な栄養が行き渡らず、成長が遅れたり、花や果実の発育が不完全になったりします。とくにベリー類はこうしたストレスに敏感で、実の数が減るだけでなく、粒自体が小さく味も淡くなりがちです。

森の乾燥はまた、ベリー以外の下草や、木々の若芽にも影響を及ぼします。こうした“土壌水分の慢性的な不足”が、ミュンヘン近郊の森のベリー不作を根本から支えているのです。


窒素過多と森の「肥満化」

森のベリーが実らなくなっているもう一つの大きな要因は、「窒素過多」です。現代の農業や車の排気ガスから発生した窒素化合物は、大気を通して雨とともに森の土壌に降り注ぎます。バイエルン州環境庁(LfU)や自然保護団体BUNDの調査では、ミュンヘン近郊の森林では年平均20〜30kg/haもの窒素が沈着していることがわかっています(BUND, LfU)。

このような過剰な窒素供給は、森の生態系のバランスを大きく崩してしまいます。窒素が増えることで、イラクサやブラックベリーなど“窒素好き”の強い植物がどんどん繁殖し、ブルーベリーやラズベリーのような繊細な野生ベリーが押し負けてしまいます。森の下草層が単調な緑一色になり、かつてのような多様なベリーや草花が姿を消してしまうのです。

実際、私が歩いた森でも、以前は足元いっぱいに広がっていたブルーベリーの群生が、今ではイラクサやブラックベリーに取って代わられている場所が増えています。森の“肥満化”とも言えるこの現象は、ベリーの生育だけでなく、生物多様性そのものの喪失にもつながっています。


森の構造変化と光不足

もうひとつ、見逃せないのが「森の光環境の変化」です。ミュンヘン近郊の森は、かつては広葉樹と針葉樹が混ざり合い、日差しがよく差し込む明るい森でした。しかし、伐採や再造林の影響で、現在はトウヒやブナなどの単一樹種が密集する暗い森が増えています。

ブルーベリーやラズベリーなどのベリー類は、もともと“明るい林縁”や林床に生える植物です。森の床に届く光が全体の5%未満になると、ベリーの結実率が半分以下になることが研究で明らかになっています(LWF Bayern)。私自身も、明るい伐採跡や森の端では今でもベリーが元気に実をつけているのを目にしますが、暗い密林の中ではほとんど見つかりません。

このような光不足は、ベリー類の開花・結実を直接的に阻害します。また、光が届かない環境では下草層がさらに単調化し、森全体の多様性が失われていきます。


優占種による競争と下草の変化

ここ数年、ミュンヘン近郊の森で特に目立つのが、ブラックベリーやハシバミ、ホオノキなど成長力の強い植物の増加です。これらの植物は広い根を張り、養分や水分を大量に消費するため、繊細なベリーが育つ余地がますます小さくなっています。

ブラックベリーは繁殖力が極めて強く、トゲのある茎で他の植物の成長も妨げてしまいます。私が森で出会った地元の方々も、「昔はもっといろいろなベリーが採れたのに、今はブラックベリーばかりになってしまった」と話していました。このような競争の激化は、ベリー不作の直接的な原因のひとつです。


病害や動物の食害

また、近年はベリー類の病気や動物による食害も問題となっています。ブルーベリーではBotrytis cinerea(灰色かび病)などの果実病害、ラズベリーではウイルス性のモザイク病や葉の斑点病が増えています(Plantura Garten)。これらの病気は特に湿度や気温の急変に敏感で、天候不順の年ほど発生しやすくなります。

さらに、シカや野ウサギによる若芽や新芽の食害も、ベリーの成長を阻害する一因です。春先の食害がひどい年は、その年の開花や結実が極端に減ってしまいます。

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kiyoshichiya
kiyoshichiya合同会社喜代七 / 喜代七屋 Kiyoshichi LLC / Kiyoshichiya freelance
Agriculture, Forestry, Fisheries Management Consultant & Fieldwork Coodinator.

We are working to live our LIFE that can be enjoyed for seven generations. Utilizing my know-how and experience, I am working as a professional consultant mainly in Japan and Germany. My hobbies are Mountaineering, Violin, Academic Learning & Fieldwork.
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