『Sanfte Stadt: Planungsideen für den urbanen Alltag』サンフテ・シュタット:都市の日常のためのやさしい都市計画アイデア

本書の概要

『Sanfte Stadt』は、デンマークの都市デザイン事務所「Gehl Architects」で長年実践を重ねてきた都市プランナー、デイヴィッド・シムによる都市計画の実践的提案書です。本書のテーマは「サンフテ(やさしさ・柔らかさ)」をキーワードに、都市をより人間的で快適、かつ多様な人々がともに生きやすい空間へと変えていくための思想と具体的なデザイン手法を展開することです。

本書は、20世紀の都市計画がもたらした「分断された都市」「車中心の都市空間」「非人間的なスケールの建築」に対し、生活者の視点・日常の体験を起点に、住宅や公共空間、移動や気候などを“やさしく結びつける”ことの重要性を訴えます。デイヴィッド・シムは北欧(特にコペンハーゲンやスウェーデン)の都市デザインの知見や「ヒュッゲ(居心地のよさ)」といった文化的背景も交え、身近な都市空間を誰もが快適に使いこなせる工夫や“密度と多様性”のある暮らし方、コミュニティをつくる小さな仕掛けを豊富なイラストや写真で解説します。

特徴的なのは「小さな工夫」「段階的な変化」を重視し、複雑なテクノロジーや大規模開発に頼るのではなく、低コストで即効性のある方法(例:道や広場の再設計、気候に合わせた日陰や緑、窓の配置、共用空間の設計、歩行者・自転車の快適性向上など)を提案している点です。これにより“都市の密度”と“住みやすさ”を両立させ、孤立や分断・ストレス・気候変動・高齢化など現代都市の課題を乗り越えようとしています。

また、「都市のやさしさ=サステナブルでレジリエントな都市」の設計論でもあり、機能やデザインを分断せず、生活の多様な要素(住む・働く・移動する・遊ぶ・つながる)をゆるやかに重ね合わせる“重層性”や“人間のスケール感”が何より重要とされます。本書は、建築家や行政担当者だけでなく、まちづくりに関心を持つすべての人にヒントを与える一冊です。


Inhaltsverzeichnis(Table of Contents / 目次)

  1. Vorwort
     Foreword / 序文
  2. Einführung: Vom Leben zwischen Gebäuden zur sanften Stadt
     Introduction: From Life Between Buildings to the Gentle City
     はじめに:建物の間の生活から“やさしい都市”へ
  3. Nachbarn sein
     Being Neighbours / 隣人になること
  4. Blöcke als Bausteine – Vor Ort leben in einer verstädternden Welt
     Blocks as Building Blocks – Living Locally in an Urbanising World
     ブロックという構成単位-都市化する世界でローカルに暮らす
  5. Umschließung
     Enclosure / 包囲(空間の囲い込み)
  6. Verbunden
     Connected / つながり
  7. Schichtung
     Layering / 層化・重層性
  8. Das Potenzial des Erdgeschosses
     The Potential of the Ground Floor / 1階(地上階)の可能性
  9. Größere Elemente unterbringen und den menschlichen Maßstab beibehalten
     Accommodating Larger Elements While Maintaining a Human Scale
     大きな要素を取り入れつつ人間的スケールを維持する
  10. Was ein geschlossener Block leisten kann
     What a Closed Block Can Do / クローズドブロックの可能性
  11. Die Zeit deines Lebens
     The Time of Your Life / 人生の時間
  12. Fortbewegung und Vorankommen in einer überfüllten und segregierten Welt
     Mobility and Getting Around in a Crowded and Segregated World
     混雑し分断された世界での移動と前進
  13. Die menschliche Dimension der Mobilität
     The Human Dimension of Mobility / 移動の“人間的側面”
  14. Fußläufige Gebäude
     Walkable Buildings / 徒歩圏の建物
  15. Straßen bauen
     Building Streets / 道路をつくる
  16. Über das Zufußgehen
     About Walking / 歩くことについて
  17. Das Radfahren integrieren
     Integrating Cycling / 自転車を都市に組み込む
  18. Leben schichten
     Layering Life / 生活の重層化
  19. Mit dem Wetter leben in Zeiten des Klimawandels
     Living with the Weather in Times of Climate Change
     気候変動時代の“天候とともに生きる”
  20. Im Freien leben lernen
     Learning to Live Outdoors / 屋外で生きることを学ぶ
  21. Den Außenbereich ins Haus holen: Natürliches Licht und Belüftung
     Bringing the Outdoors In: Natural Light and Ventilation
     屋外性を室内に取り込む-自然光と換気
  22. Fenster und Türen
     Windows and Doors / 窓と扉
  23. Die unmittelbare Außenwelt
     The Immediate Outdoors / すぐ外の環境
  24. Das eigene Wetter schaffen
     Creating Your Own Weather / 自分だけの天候をつくる
  25. Die Natur in die Stadt bringen
     Bringing Nature into the City / 都市に自然をもたらす
  26. Sanftes ist schwer zu brechen
     What is Gentle is Hard to Break / “やさしさ”は壊れにくい
  27. Neun Kriterien für lebenswerte urbane Dichte
     Nine Criteria for Livable Urban Density
     “住みやすい都市密度”の9つの基準
  28. Sanfte Städte in harten Zeiten
     Gentle Cities in Tough Times / 困難な時代の“やさしい都市”
  29. Anmerkungen
     Notes / 注釈
  30. Bildnachweis
     Image Credits / 写真・図版クレジット
  31. Autorenbiografie
     Author Biography / 著者略歴

1. 序論:現代都市への問題提起

本書の冒頭、著者デイヴィッド・シムは、自らの出自や実践経験を踏まえながら、現代都市計画が陥った「分断」と「非人間的スケール」の問題を強調する。20世紀都市計画の大きな転機であった「CIAMアテネ憲章」により、住・職・遊・交通の機能分離が理想とされ、巨大な単機能ブロックや車社会の発展をもたらした。その帰結として生まれた“分断都市”は、実際には人間の幸福やコミュニティ、持続可能性に対して深刻な悪影響を与えてきたと、著者は指摘する。

本書の目的は、「都市をやさしくすること」、すなわち「Sanfte Stadt(サンフテ・シュタット)」という新しい都市像を、北欧や欧州の経験を活かしながら具体的に描き出すことにある。著者の着想の根底には、「ヒュッゲ(居心地の良さ)」や「コーゼ(親密さ)」など、北欧的な価値観が強く影響している。それは、都市が必ずしもハードで冷たいものではなく、むしろ人間のために、やさしく・柔らかくデザインしなおすことができるという前提である。

2. サンフテ都市論の思想的背景

本書が批判するのは、単なるハードウェアとしての都市計画ではない。むしろ「日常」「コミュニティ」「多様性」「つながり」「身体性」など、都市における人間の実感や暮らし方のディテールにこそ、本質的な都市の価値が宿るとする。
著者はヤン・ゲールら北欧の都市論(『人間のための都市』)やジェイン・ジェイコブズ(『アメリカ大都市の死と生』)の系譜を継承し、「人間の視点」から都市を再構成する必要性を繰り返し説く。
この「サンフテ(やさしさ)」という概念は、気候・経済・社会的課題が激化する21世紀において、都市が直面する“硬直化”や“孤立化”を打ち破る新たな可能性として提示される。サンフテ都市は、スマートシティのような高度技術依存ではなく、“ローテク”で“小さな工夫”を積み重ねることで実現されるものである。

3. サンフテ都市の空間デザイン原則

本書の中核は、具体的なデザインの原則と方法論の提示にある。その要点は以下の通りである。

3.1 多様性と密度

サンフテ都市の基本単位は、「ブロック」や「近隣」という小さなスケールにあり、多様な機能・人々・建物が共存できる“高密度・高多様性”を重視する。これは、住宅地・オフィス・店舗・公共空間・公園・遊び場などが分断されず、歩行や自転車での移動を基本に、誰もが気軽に“近く”で暮らせる都市のあり方である。

3.2 空間の“包囲”と“つながり”

都市空間は「囲まれ感」(エンクロージャー)と「開放性」「つながり」をバランス良く設計する必要がある。ストリートや広場のデザインにおいては、視線の抜けやパブリックとプライベートの中間領域(半私的空間)を作り、自然な“出会い”や“挨拶”“偶然の交流”が生まれる構造とする。これは、欧州の伝統的な路地や中庭、北欧の“コモンスペース”などにみられる。

3.3 レイヤリング(重層性)

サンフテ都市は、単純なゾーニングではなく、空間や用途が重なり合う「レイヤリング」が重要である。たとえば1階は商業・2階以上は住宅、あるいは路地裏がコミュニティガーデンやワークショップとなるなど、1つの場所が多用途的に使われる。

3.4 グラウンドフロア(地上階)の活用

都市の“顔”となるグラウンドフロア(地上階)の使い方は特に重視される。道路に面した1階部分にショップやカフェ、コミュニティスペース、子どもの遊び場などを設けることで、通行人と住民の自然なインタラクションが生まれる。これが街の“にぎわい”や“安全性”にも直結する。

3.5 人間的スケールと大規模要素の調和

サンフテ都市では「人間的スケール(Human Scale)」が重視されるが、時に大規模な施設や建築が求められる場合もある。その際は、巨大建築を“分節化”したり、ファサードやエントランスの細やかなデザインにより圧迫感を減らし、“まちに溶け込む”工夫を行う。

4. 日常とコミュニティの重視

著者は、「都市の本質は日常にある」と強調する。
人々の“日々の動線”や“居場所”を丁寧に観察し、まちの微細な“余白”にこそ都市の可能性が潜むと説く。たとえば玄関前のベンチや花壇、アパート共用部の小さな談話スペースなど、コミュニケーションや偶然の出会いが生まれる場所を意図的にデザインすることが、サンフテ都市の基礎となる。
また「近隣関係(隣人性)」を都市設計の中で再評価し、住民同士が気軽に挨拶し合える物理的・心理的な距離感を生み出す仕組みづくりが重視される。

5. 都市モビリティの再設計

サンフテ都市のもう一つの柱は、「移動のやさしさ」「歩行と自転車を中心とした都市構造」にある。自動車優先型から脱却し、徒歩や自転車、公共交通機関による快適な移動が保障される都市の重要性が強調される。
また“すべての建物が歩いてアクセスできる距離”を意識した配置や、車道の幅を狭くし歩行空間を広げる、横断歩道の視認性を高める、バリアフリー設計、シェア自転車の導入など、多様な手法が具体例とともに紹介される。

6. 気候・天候と都市設計

著者は「気候変動時代の都市設計」という視点も本書で大きく扱う。
北欧や日本のように寒暖差や季節の変化が大きい地域では、屋外空間の活用が難しくなりがちだが、「屋外を屋内に取り込む」「日光・通風・植栽・庇・可動式の窓や扉」など、さまざまな方法で“天候と共生する都市”を設計することが提案される。
また“気候に応じた可変性”や“マイクロクライメート(微気候)”を都市の中に作り出すアイデアも豊富に示されている。

7. 自然と都市の共生

サンフテ都市の理念の根底には、「都市と自然の再接続」がある。
緑地や植栽、都市農園、生態系サービス(エコシステムサービス)を都市の細部に埋め込み、人間だけでなく鳥や昆虫など多様な生物種が共存できる“バイオフィリック・シティ”への転換を促す。これは気候変動へのレジリエンス強化、都市の暑熱緩和やメンタルヘルス向上にも寄与するとされる。

8. 柔らかさ=レジリエンス

本書後半では、「やさしさ」「柔らかさ」こそが都市のレジリエンス(強靭性)や持続可能性につながるという視点が強調される。
大規模なインフラや規格化された設計ではなく、変化に対応できる“可変性”や“多様性”“冗長性”を内包する都市構造こそ、将来の危機や社会変動に強いという論理である。
また、パンデミックや自然災害、気候変動などへの具体的な対応策として、小規模分散型の空間利用やコミュニティベースの都市運営の重要性が説かれている。

9. 実践事例と評価

本書では、スウェーデンやデンマークの住宅地開発「ボー01(Bo01)」や「ハンマルビー・ショースタッド(Hammarby Sjöstad)」、イギリスのByker Wall、オーストラリアや米国の都市再生プロジェクトなど、実際に“サンフテ都市”の原理を実践した都市の事例が多数紹介される。
これらの事例に共通するのは「歩行者中心のデザイン」「住民参加型の計画」「多様なライフスタイルに対応する空間構成」「気候・エコロジー配慮」「人間的スケール」「住民同士の緩やかなつながりの創出」といった要素である。

10. サンフテ都市の9つの評価基準

最終章にて、著者は“住みやすい都市密度”を判定するための9つの評価基準を整理する。

  1. 多様な建築形態の共存
  2. 多様な自由空間の存在
  3. 柔軟性
  4. 人間的スケール
  5. 歩行可能性(ウォーカビリティ)
  6. コントロールとアイデンティティ
  7. 快適なマイクロクライメート(微気候)
  8. 低いCO₂フットプリント
  9. 高い生物多様性

これらは、いずれも従来の都市計画が重視してこなかった“質”や“体験価値”に重点を置くものであり、スマートシティや大量生産型都市モデルに対する根源的なオルタナティブとなっている。

総括

『Sanfte Stadt』は、都市計画・建築分野の最新の知見と実践を網羅しつつ、従来の工学主義・合理主義・巨大化志向への強いアンチテーゼとして成立している。
本書の価値は、単に“やさしいデザイン”を提案するだけでなく、現代都市が直面する複合的課題(気候変動、孤立、格差、健康、住民の幸福感など)に対し、「多様性」「人間らしさ」「参加」「レジリエンス」というキーワードで応答しようとする点にある。
また北欧・欧州の事例を参照しつつ、アジアやグローバルサウスにも適用可能な“普遍性”と“具体性”を兼ね備えていることも特筆される。

技術偏重や経済合理性優先ではなく、“生活者”の実感や幸福に立脚した都市計画が今後ますます重要となる中で、本書の提案は学術的・実践的にも大きな意義をもつ。
「やさしさ=弱さ」ではなく、「やさしさ=強さ」とする本書の思想は、持続可能な都市の未来像を描く上で、極めて現代的かつラディカルな視座を提示していると言える。

Author Profile

kiyoshichiya
kiyoshichiya合同会社喜代七 / 喜代七屋 Kiyoshichi LLC / Kiyoshichiya freelance
Agriculture, Forestry, Fisheries Management Consultant & Fieldwork Coodinator.

We are working to live our LIFE that can be enjoyed for seven generations. Utilizing my know-how and experience, I am working as a professional consultant mainly in Japan and Germany. My hobbies are Mountaineering, Violin, Academic Learning & Fieldwork.
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