『Regenerative Leadership: The DNA of life-affirming 21st century organizations』(Laura Storm, Giles Hutchins, 2019)


概要
現代社会が抱える危機の時代にあって、従来型リーダーシップや企業経営の限界が顕在化しつつある。持続可能性(サステナビリティ)が経営や社会の文脈で叫ばれるようになって久しいが、それでもなお世界は気候変動、生態系の劣化、社会的分断、組織内外のストレス、価値観の揺らぎといった大きな断絶の中にある。こうした現実を直視しながら、本書『Regenerative Leadership』は、単なる“持続”ではなく「再生(リジェネレーション)」へと発想を転換し、人と組織と地球全体のウェルビーイングを再構築するための新たなリーダーシップ論を提示している。
冒頭、著者たちは現代の象徴的な出来事――たとえばグレタ・トゥーンベリによる気候ストライキ運動や、世界各地で若者が立ち上がり既存世代や権力構造へ異議を唱える姿――に注目し、いま何が変わりつつあるのかを浮き彫りにする。もはや個人や組織が「旧来のやり方」にしがみつくことはできず、抜本的な転換点が求められている。資源の枯渇、社会的格差の拡大、職場における高ストレス、技術革新による不確実性、グローバル化と分断、移民・難民問題、持続しないサプライチェーン、経済的な脆弱性など、私たちの社会システムそのものが“限界”を露呈している。さらに生物多様性の崩壊や気候変動の進行が、人類の未来そのものを揺るがしている。
こうした「崩壊」(Breakdown)の兆候は、組織や個人レベルでも無関係ではない。既存の組織構造はしばしば短期的利益に偏重し、線形的な“使い捨て”型(take-make-waste)の生産モデルに依存している。競争とコントロールが強調されることで人間性が損なわれ、ストレスや燃え尽き症候群(burnout)が蔓延し、創造性や協働の土壌も痩せてしまう。多くの人々は、自分の仕事や所属する組織が社会や自然にどのようなインパクトを及ぼしているのか実感できず、疎外感に苛まれている。こうした行き詰まりの中で、「果たして自分は何を目指し、何に貢献しているのか」という根源的な問いが生まれつつある。
しかし著者たちは、この危機の只中に“ブレイクスルー(Breakthrough)”の可能性も同時に見出す。世界各地で、既存のシステムや組織文化を問い直し、自然のロジック=「生命の論理」から学ぼうとする動きが活発化している。リジェネラティブ・リーダーシップとは、単なる“持続可能性”を超え、組織や社会が「生命と一体となって成長・発展し、周囲のエコシステムやコミュニティをも活性化する在り方」を目指すものである。ここでいう“再生”とは、一方向的なリソースの消費や効率化ではなく、相互作用と循環、成長と進化、全体性と調和に基づく営みである。
そのために本書では、幅広い分野の知見を結集している。生物学や生態学、心理学、社会学、経済学、神経科学、パーマカルチャーやサーキュラー・エコノミー(循環経済)、バイオフィリア(生物親和性)、バイオミミクリー(生体模倣)、クレイドル・トゥ・クレイドル(循環型設計)など、自然や生命現象から導かれる原則をリーダーシップや組織開発に応用する視座が根底にある。また、従来型の「トップダウン型ヒエラルキー」や「効率至上主義」ではなく、共創・参加・分権・自己組織化など“生きているシステム”の原則を取り入れた経営モデルを志向している。
著者たちが提案する「リジェネラティブ・リーダーシップ」の根幹には、以下の要素がある。
第一に、“Purpose(目的)”、“People(人)”、“Planet(地球)”、“Profit(利益)”の四つのPが互いに補完し合い、同時に繁栄する経営モデルを目指すこと。第二に、個人の自己変容と組織文化の変革を不可分と捉え、リーダー自身がまず“内面の進化”を遂げることが出発点となる。第三に、組織が“生きたシステム”としてダイナミックに環境と関わり、多様性や創造性、適応力を高めながら自己再生し続けることを重視する。この文脈では、リーダーは「指示命令する人」ではなく、「環境とつながり、多様な声に耳を傾け、対話と学習を促す触媒」としての役割を果たす。
この新しいリーダーシップ論は、単なる理論や概念の提案に留まらず、実践的なツールや事例の紹介にも力点が置かれている。たとえば企業・NPO・コミュニティ・自治体・国レベルまで、多様なスケールにおいてリジェネラティブな実践を導入した事例や、失敗からの学び、組織変革のプロセスを支えるフレームワークなども具体的に提示されている。リジェネラティブな組織文化を育むためには、単に戦略や制度を変えるだけでなく、日々の対話や意思決定、協働のあり方、評価・学習の仕組みそのものを生命のロジックに基づいて再設計する必要があるという。
また本書は、読者に対しても「自分自身の内面の探求と実践」への参加を積極的に呼びかける。ページの随所で、問いかけ、振り返りのワーク、自然の中での省察、仲間との対話などを組み合わせることで、単なる知識の受容ではなく、読者自身が“リジェネレーター(再生の担い手)”として具体的に行動を始めるための道筋を示している。これによって本書は、従来のリーダーシップ論や経営書の枠を超えた“実践的なガイド”としての性格を帯びている。
一方で、リジェネラティブ・リーダーシップの挑戦は決して容易ではないことも、著者たちは認めている。既存のシステムや価値観、慣行との摩擦や違和感、自己変容に伴う痛みや不安、組織や社会全体の「移行期的混乱」は避けがたい。だがそれでも、危機の時代を“希望の時代”に転換するには、各人が「まずは自分自身から」始めるしかないと語る。その出発点は、“わたしたちの家は燃えている”という危機感を現実として直視し、「想像力と勇気を持って“不可能”に挑むこと」である。チャールズ・ハンディの言葉を引用しながら、“不合理の時代(Age of Unreason)”を生き抜くために必要なのは、過去の延長線上にはない“型破りな発想”と“行動”であり、それこそが本書の提案するリジェネラティブ・リーダーシップの核心である。
本書の構成は大きく三部に分かれる。第一部は「Breakdowns & Breakthroughs」と題し、現代の危機の根源に遡り、社会・文化・組織の断絶と変容のダイナミクスを多角的に分析する。ここでは、人類史のなかで自然と人間の関係性、性別や共同体の変遷、近代化・産業化のもたらした分離と疎外、そして現代のポスト工業社会に至るまでの変遷が論じられる。人間が自然や他者から切り離され、自己中心的な「エゴ意識」が肥大化した結果、現代の様々な問題が生まれたという歴史的・文化的分析は、単なる道徳的主張や理想論とは一線を画している。
第二部は「The DNA of Regenerative Leadership」として、生命のロジックに基づく新しいリーダーシップのモデルと原則を体系的に解説する。ここでは「Living Systems Design(生きているシステムの設計)」「Living Systems Culture(生きているシステムの文化)」「Living Systems Being(生きているシステムとしての在り方)」など、組織やリーダーシップを“生命体”として捉え直す発想が根幹に据えられる。また“二つのダイナミクス”や“再生的リーダーシップのDNAモデル”など、独自のフレームワークや手法も展開される。これらは単なる比喩ではなく、最新のシステム理論や生態学、行動科学などの知見をベースにしたものであり、具体的な実践知としての側面も強い。
第三部「When the Rubber Hits the Road」では、理論や原則を実際に組織や現場で適用するための方法論、ツール、FAQ、ケーススタディ、自己変容のためのワークなどが紹介される。ここで特に重視されるのは、“完全解”や“万能モデル”の提供ではなく、各人・各組織が「自ら試行錯誤し、学びながら進化する」ための実践的な道具立てである。こうした“道なき道を行く”姿勢こそが、変化の時代におけるリーダーシップの本質であると強調される。
総じて『Regenerative Leadership』は、危機の時代において希望の灯をともす新たなリーダー像を描いている。それは、自己変容と社会変革を分かちがたく結びつけ、自然や他者とのつながりを回復し、全体性と多様性、進化と循環、創造と協働をキーワードにした「生命的リーダーシップ」の提案である。そのためには、現実を直視し、想像力と勇気を持って“不合理”や“不確実”に挑み、日々の営みのなかに再生のロジックを体現することが求められる。読者に向けられる熱いメッセージは、決して単なる理想論ではない。「いまここから始める」「誰もがリジェネレーターになれる」という主体性と行動への呼びかけが、全編を通じて貫かれている。
こうして本書は、リーダーシップや組織論の枠を超え、現代の社会変革論としても、個人の内面的成長論としても読みうる内容となっている。理論・事例・ツール・実践ワークが多層的に組み合わされている点も特徴であり、単なる知識の提供ではなく、読者自身が「新しい旅」に踏み出すきっかけとなることを志向している。
Table of Contents / 目次
Introduction: Welcome to the Journey of a Lifetime
イントロダクション:生涯にわたる旅への歓迎
PART 1: BREAKDOWNS & BREAKTHROUGHS
パート1:崩壊と突破
- Going Back in Time to Find the Root of Our Current Crisis
現代の危機の根源を探るためのタイムトラベル - Are We Breaking Down or Breaking Through?
崩壊なのか、それとも突破なのか? - The Dawn of a New Leadership Era
新しいリーダーシップ時代の夜明け
INTERLUDE – Meditation
間奏 – 瞑想
PART 2: THE DNA OF REGENERATIVE LEADERSHIP
パート2:リジェネラティブ・リーダーシップのDNA
- A New Regenerative Model Based on The Logic of Life
生命の論理に基づく新しい再生モデル - The Two Dynamics in Regenerative Leadership
リジェネラティブ・リーダーシップにおける二つのダイナミクス - Living Systems Design
生きているシステムのデザイン - Living Systems Culture
生きているシステムのカルチャー(文化) - Living Systems Being
生きているシステムとしての「在り方」
INTERLUDE – We Are the Ones We’ve Been Waiting For
間奏 – 待ち望んでいたのは私たち自身
PART 3: WHEN THE RUBBER HITS THE ROAD
パート3:理論から実践へ(現実の場面でどう活かすか)
- Applying the Regenerative Leadership DNA
リジェネラティブ・リーダーシップDNAの実践 - Frequently Asked Questions
よくある質問(FAQ) - Toolbox for Regenerative Leaders
リジェネラティブ・リーダーのためのツールボックス
Epilogue
エピローグ
Acknowledgements
謝辞
Glossary
用語集
Bibliography
参考文献
Praise for Regenerative Leadership
『リジェネラティブ・リーダーシップ』への賛辞
The Authors of this Book
本書の著者について
パート1 BREAKDOWNS & BREAKTHROUGHS(崩壊と突破)
本書の第1部「BREAKDOWNS & BREAKTHROUGHS」は、いわば現代社会を覆う暗雲の正体を解き明かすプロローグであり、同時に「突破」の予感を孕んだ序章でもある。著者たちは、ただ単に危機を嘆くのではなく、その根本にまで遡り、人類史、組織、文化、個人の深層に横たわる分断と分離の力学に鋭くメスを入れていく。
冒頭でまず浮かび上がるのは、現代社会が直面している多層的な“崩壊”の実態である。気候変動や生物多様性の喪失といった地球規模の環境危機はもちろん、職場のストレスや燃え尽き症候群、社会的不平等や格差、政治的分断、グローバル資本主義の過剰な競争、情報過多による精神的な疲弊など、どれもが私たちの日常の“景色”となっている。著者たちはこうした現象を単なる「時代の波」や「一時的な揺り戻し」ではなく、文明そのものが根底から問い直されている「大きな転換点」の兆候ととらえる。
この危機感は決して悲観主義に基づくものではない。むしろ、著者たちは読者に対し「なぜ今、このような状態になっているのか」「私たちはどこで道を誤ったのか」と真剣に問いかける。答えを求めて彼らは人類の歴史をさかのぼる。そこでは、1万年以上前、狩猟採集社会において人間と自然がまだ密接につながり、コミュニティの中で男女が対等に扱われ、暴力や階層が目立たない時代が描写される。生命全体を“循環するリズム”として理解し、人間が自然の管理者・守護者として生きていた時代だ。アートや踊り、儀式が日常の一部であり、神話や宗教においても「天空の神」と「大地の女神」がペアで崇拝されたとする。
しかし気候変動や人口増加、技術の発展とともに農耕社会が出現すると、状況は大きく変化する。土地の所有や余剰生産物の蓄積、書き言葉の発明、ヒエラルキーと中央集権化、貨幣経済、男性性の優位、戦争と支配の論理――こうした「分離」の契機が連鎖的に拡大し、人間は徐々に自然からも、他者からも、さらには自己の内面からも“切り離された存在”となっていく。著者たちはこの流れを「エゴの爆発(Ego Explosion)」と表現し、進化論的・心理学的視点も交えて、近代社会における“個人化”と“分断”の系譜を描く。
さらに著者たちは、15世紀から16世紀にかけてのヨーロッパ――いわゆる“小氷期”という気候危機の到来――が社会の不安と混乱を増幅し、キリスト教的価値観が「自然と人間は別物である」「神は人間や自然を超越した存在である」と強調されるようになったことに着目する。自然界の力や現象が“悪”や“混沌”とみなされ、女性の知や癒し(midwife、ハーブなど自然とつながる知識)への弾圧、魔女狩りの横行といった現象が起きる。この時期、自然や女性性、そして“全体とのつながり”が一段と抑圧されていく。
こうして現代に至るまで、西洋近代は「分離の物語(story of separation)」の上に築かれてきた。科学革命や産業革命は、自然を「客体化」し、操作・支配・効率化の対象へと変えていく。企業や組織の論理も“管理と統制”“効率と最大化”“短期利益の追求”に偏重し、人間自身も自らを“歯車”のように感じるようになる。この「分離」と「制御」の文化が、社会・経済・組織、ひいては個人の内面にまで根を下ろし、いま私たちが直面する多様な危機の温床となっている――著者たちはこうした歴史的・構造的背景を多面的に明らかにする。
しかし、ここで著者たちは決して絶望の淵に立つわけではない。むしろ本書のユニークさは、「崩壊=危機」を“突破”への扉と見なすパラダイム転換の提案にある。彼らは、現在世界各地で静かに、しかし確実に広がりつつある「新しい生き方・働き方」「生きている組織」の胎動に着目する。それは、旧来のヒエラルキー型組織を超え、自己組織化、分権、共創、多様性、循環、学習、対話――こうした“生命の論理”を組織やコミュニティの中核に据えた動きである。著者たちは実際の変革者や先駆的な組織の事例を豊富に引用し、社会の各所に“再生”の芽が息づきつつあることを証明してみせる。
パート1の論調は一貫して「危機の直視」と「希望の創造」を対置しつつ、単なる楽観主義や理想論とは一線を画している。社会や組織の大きな転換は“誰か特別なリーダー”が起こすものではなく、「私たち一人ひとり」が自分自身の内面・行動を問い直し、変革の連鎖を生み出していくことの重要性が繰り返し強調される。そのうえで、現代におけるリーダーシップとは単なる「問題解決」や「効率の追求」ではなく、“生命の再生力”を呼び覚まし、人と組織、社会と地球がともに繁栄するための“条件づくり”そのものであるべきだという大胆な提案がなされる。
このパートの終盤では、「われわれは今、破壊と創造のはざまに生きている。これまでの延長線上には答えはない。不確実性や“非合理”を引き受け、新しい想像力と勇気で、組織や社会の“生態系”を根本から再設計していく時が来た」との力強いメッセージが投げかけられる。実際、本書の原動力は、“危機感”と“希望”という一見相反する要素を両輪に、読者自身の内省と実践へと静かに背中を押すところにある。グレタ・トゥーンベリを象徴とする若い世代のムーブメント、社会起業家や地域リーダーの挑戦、大企業やNPOで始まる“再生的実践”――これらを単なる事例紹介にとどめず、「あなたにもできる」「あなたが始めるしかない」という主体性への訴求にまで昇華させている点は特筆に値する。
全体としてパート1は、現代の閉塞感と混乱の正体を丁寧に解きほぐしつつ、その中に確かな“希望の兆し”を見出すための理論的・歴史的土台を据えている。単なる批判や啓蒙ではなく、「なぜ私たちは“分離”と“制御”の文化に陥ったのか」を文化史・組織論・心理学・システム論など多様な観点から多層的に解釈し、そのうえで「生命の論理」「再生の原理」に立脚した新しい道筋を準備している。危機の現場に立つすべての読者に対して、自己の内面と組織・社会の変革が表裏一体であることを繰り返し問いかけ、行動の出発点としての「今・ここ」に意識を引き戻す力がある。
パート1は、単に「なぜ今、リジェネラティブ・リーダーシップが必要なのか」を説明するイントロダクションを超えて、現代における「崩壊の時代」を“突破と再生の時代”へと反転させるための思想的基盤となっている。危機を直視する勇気と、希望を創造する想像力――その両者のバランスのうえに、著者たちは新しいリーダーシップ論の胎動を鮮やかに描き出しているのである。
パート2「THE DNA OF REGENERATIVE LEADERSHIP(リジェネラティブ・リーダーシップのDNA)」
パート2「THE DNA OF REGENERATIVE LEADERSHIP」は、本書の核心であり、単なる時代批評や理想論に終わらない“生命のロジックに基づく新たなリーダーシップモデル”の具体的な枠組みを描き出す重要なセクションである。前パートで論じられた「分離」や「崩壊」といった人類史的・組織論的背景のうえに、著者たちは“再生”の原理をどのように組織やリーダーの実践に体現していくかを追究する。
まず、著者たちは「リジェネラティブ(再生的)」という言葉の定義から説き起こす。従来の持続可能性(サステナビリティ)が「現状維持」や「環境・社会への悪影響の最小化」にとどまる傾向が強いのに対し、リジェネラティブとは“生命が本来もつ成長・発展・多様性・自己修復・進化の力”そのものを、組織や個人、社会のあらゆるレベルで再び呼び覚ますことを意味する。ここで重要なのは、「生きているシステム(Living Systems)」という視点である。自然界の生態系は、決して静的な均衡状態を保つのではなく、絶えず変化し、進化し、失敗や外部ショックさえも“学び”や“次なる成長”の糧として取り込みながら、より豊かでレジリエントな全体を築き上げていく。
この生命のロジックを組織やリーダーシップに応用するには、いくつかの「システム的な転換」が必要になる。たとえば、従来型組織の“命令と統制”“分業と効率”から、“つながりと循環”“多様性と共創”“分散型・自己組織化”へとシフトする必要がある。また、リーダー像自体も「全体をコントロールする支配者」から「環境・関係性・目的を紡ぐ“触媒”や“ファシリテーター”」へと大きく変化する。
このパートで展開される「リジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデル」は、次の三層から成り立っている。第一は「Living Systems Design(生きているシステムとしての設計)」であり、組織構造・プロセス・戦略・意思決定を“生命的”な原理で再構築することを目指す。ここでは、中央集権型の階層構造ではなく、分散的・ネットワーク的・フラットな構造が強調される。組織内外の境界は柔軟になり、部門や役割を超えた連携や、予測不能な変化にも即応できる“動的な仕組み”が求められる。また、組織の目的(Purpose)が短期的利益や効率最大化ではなく、「人・地球・利益・目的(Purpose, People, Planet, Profit)」が統合的に繁栄する“多元的な価値”へと再定義される。これにより、戦略・評価指標・リーダーシップ行動の全体が大きく変わることになる。
第二の層は「Living Systems Culture(生きているシステムとしての文化)」である。ここでは、組織文化や日常的な行動・価値観・習慣の深層に焦点が当てられる。生命システムの文化では、多様性・包摂性・対話・学習・信頼・心理的安全性が基盤となる。変化や失敗を“恐れるべきもの”ではなく“学びや進化の契機”とみなす文化が、創造性や適応力、イノベーションの土壌を生み出す。組織は“固定された機械”ではなく“絶えず成長・変容する有機体”であるため、ルールや制度よりも“つながり”や“ストーリー”、“集合的な意味づけ”が中心的役割を果たす。ここでのリーダーは、「正しい答えを与える人」ではなく、「問いを投げかけ、多様な視点を結びつける触媒」として振る舞うことが求められる。
第三層は「Living Systems Being(生きているシステムとしての“在り方”)」であり、個々のリーダーやメンバーの“内面”に焦点を当てる。ここではマインドセットや価値観、セルフリーダーシップ、意識の発達、感情・身体性とのつながりなど、自己変容・内省・成長が重視される。自分自身が「全体の一部である」「自然や他者、社会、地球と深くつながっている」感覚を回復すること――それがリジェネラティブ・リーダーの出発点となる。単なるスキルや技術の獲得ではなく、“Being”の質そのもの、つまり「どう“存在するか」「どんな意図や価値観で生きるか」が、組織や周囲に波及し、リーダーシップの核心を成す。
著者たちはこの三層(Design, Culture, Being)が相互に絡み合い、単独で機能するのではなく「組織という生きもの」を統合的に支える“DNA”として働くことを強調する。たとえば、どれほど組織構造やプロセスを刷新しても、文化が旧来の競争・分断・恐れに支配されていれば「本質的な変革」は生まれない。また、個人の内面が恐怖や不信、疎外感で満ちていれば、いかに外部環境や制度を変えても“生命力”は発現しない。逆に、リーダーや組織メンバーが自己変容を経験し、「生きているシステムとしての在り方」を体現できるようになると、自然と文化や構造にも変化が波及し始める。つまり、リジェネラティブ・リーダーシップとは「構造」「文化」「在り方」の“全方位的な進化”であり、部分的・表層的な改革では到達できない全体性を持つ。
パート2では、これらの理論を支える根拠や背景として、最新の生態学・複雑系科学・組織開発論・成人発達理論・行動経済学などの知見も随所で取り入れられている。たとえばパーマカルチャーやバイオミミクリーの発想――「自然の仕組みに学ぶデザイン」「生態系の強靭性や再生力」――は、組織や事業の構造改革に直接応用できる具体的なヒントをもたらす。また、成人発達論や意識進化論(Robert Kegan, Otto Scharmer, Frederic Laloux等)の視点は、リーダーや組織文化の成熟・進化を測る「内面の座標軸」として有効に機能している。
具体的な実践例としては、サークル型組織やホラクラシー、ティール組織(Laloux)、セルフマネジメントの導入事例、自然から着想を得たプロジェクト運営、マインドフルネスや身体知を生かしたリーダーシップ開発などが紹介されている。いずれも共通しているのは、「変革は外部から押し付けるものではなく、自己組織的に内部から生じる」「リーダーシップは地位や役割ではなく、“全員が共有し得る生き方・関わり方”である」という視座だ。
著者たちはまた、「二つのダイナミクス(The Two Dynamics)」という概念にも注目する。一つは「構造的ダイナミクス(Structure Dynamics)」で、組織設計や戦略、制度・プロセスのレベルの変革を指す。もう一つは「生成的ダイナミクス(Generative Dynamics)」で、文化・関係性・内面・対話・学習など、“目に見えにくいが全体の進化を駆動する力”を意味する。これら両者が相互作用することで、組織やリーダーは真にリジェネラティブな進化を遂げることができる、とされる。
パート2の特徴は、単なる理論やフレームワーク紹介に終始しない点にある。章の随所に問いやワーク、自然の観察や内省のためのヒントがちりばめられ、読者自身が「自分の組織や人生をリジェネラティブにするにはどうすればよいか」を具体的に考え始める“実践的な呼び水”となる工夫がなされている。また、著者たちの経験や失敗談、企業やコミュニティでの“生きた試行錯誤”が率直に語られることで、「誰にでも失敗や葛藤はある」「むしろ失敗や摩擦が進化の起爆剤になる」といった勇気づけのメッセージが響く。
このパートを貫くキーワードは「つながり」「循環」「進化」「全体性」「自己組織化」「多様性」「意図と意味」「対話」「共創」である。著者たちは、「どんなに世界が複雑で不確実になっても、“生命の論理”に則れば私たちは新しい調和と繁栄のサイクルを築き直せる」と強調する。生命がもともと持つ“再生力”――分断を越えて新たな全体を生み出す力――こそ、今最も求められるリーダーシップであり、それは“外部環境”の変化ではなく、「自分自身の内側」と「日々の関わり」から始まるのだ、という一貫した姿勢が伝わってくる。
パート2は、まさに「理論と実践」「内面と外面」「個と全体」「部分と全体性」を架橋する野心的な試みであり、読者にとっては自身の組織やリーダー像を“生命体”として再定義する刺激的なパートとなっている。「リジェネラティブ・リーダーシップは、誰か特別な人物だけのものではなく、今ここから“あなた”が始められる新しい生き方・関わり方である」という力強いメッセージが全編を貫き、実践への一歩を踏み出す勇気と具体的な道筋を与えてくれる。
パート3「WHEN THE RUBBER HITS THE ROAD(理論から現場へ)」
パート3「WHEN THE RUBBER HITS THE ROAD」は、本書全体のクライマックスであり、理論やビジョンがいかに現実の世界――組織、社会、そして一人ひとりの日常――で形を持つかを、徹底的に“実践”の観点から掘り下げていく章である。前二部で論じられた再生的(リジェネラティブ)リーダーシップの原則やDNAモデル、そして生命の論理に基づく組織・文化・在り方のフレームワークが、単なる理想論や啓発の言葉で終わらず、実際に「いま、ここ」でどう活かせるのか――その問いに対して、著者たちは本章で真っ向から向き合っている。
まず印象的なのは、“再生的変容”がいかに「一挙に、劇的に」ではなく、「小さな実験と反復、日々の選択の積み重ね」として進むものかというリアリズムである。著者たちは、「既存の組織や社会の構造・文化が、いきなり生命的で創造的なものに置き換わることはない」と強調する。むしろ、最初は小さな変化や違和感から始まる。それはしばしば、現場での軋轢や反発、既得権益の抵抗、変化に対する恐れや無理解といった“リアルな壁”にぶつかることからスタートする。だが、そうした摩擦や試行錯誤こそが「進化のためのエネルギー」なのだと、著者たちは語る。
本章では、多様な組織やプロジェクトにおける再生的リーダーシップの適用事例が紹介される。グローバル企業の経営層によるPurpose再定義のワークショップ、自治体やNPOが市民参加で進める“共創型”まちづくり、生産現場の現場力を引き出す対話型マネジメント、伝統的なヒエラルキー組織の中で始まったセルフマネジメント導入、教育分野でのサークル型運営、農業やエネルギー分野でのパーマカルチャー的経営など、フィールドも規模も実に多様である。
共通しているのは、「再生的変革はトップダウンでもボトムアップでもなく、“縁辺”や“つなぎ目”から生じる」という洞察である。たとえば、部署や役職、属性の異なる人同士が普段は交わらない会話を生み出す「異質な出会い」や、「現場の困りごと」から始まる自発的なプロジェクトが、予想外の連鎖反応を引き起こすことが多い。著者たちは、“複雑系”や“生態系”の知見に基づき、「一人の突出したリーダーが全体を導く」のではなく、「無数の小さなつながりと実験、学びの連続」が“新しい全体性”を生み出すプロセスを描いている。
また、再生的リーダーシップ実践の本質は、「外側を変える前に“内側”の変化から始める」ことにある。著者たちは何度も「Be the change you wish to see in the world(世界に見たい変化を、まず自分が体現せよ)」の精神を強調し、読者自身の内面に対しても、自己観察・内省・省みる時間を持つこと、自然の中で感性を研ぎ澄ますこと、日常の小さな対話や選択の質を問い直すことを提案している。これは単なる“スキルアップ”や“戦略的行動”を超えた、「在り方(Being)」そのものへの問いかけであり、個人レベルでの変容こそが、やがて組織や社会に波及する「見えないレバレッジポイント」になるという認識である。
パート3では、実践のヒントやツールも数多く紹介されている。たとえば、組織変革を推進する際の「レジリエンス・ダイアローグ」「インパクトサイクル設計」「フィードバックループ構築」などのワークショップ手法、意思決定プロセスを生きもの的に進化させる「サークル会議」「コンセンサス型合意形成」、心理的安全性や信頼を醸成する「チェックイン・チェックアウト」や「感情をシェアするワーク」、日常業務で“生命的原則”を意識するための「リフレクションジャーナル」「感謝のシェア」などが挙げられる。また、「FAQ」では、よくある抵抗や疑問――「現場の時間的・人的リソースが限られている」「トップが変わる意思を示さない」「評価制度や報酬と理念が矛盾している」「変化を測る指標が定まらない」など――に対し、著者たちは具体的かつ誠実に応答している。ここでも「万能の正解はない」「小さな実験と対話から始めてよい」という柔軟なアプローチが貫かれる。
また、組織の規模や分野、文化的背景が違っても、「生命的な論理」は必ず応用できることも強調される。ビジネス企業であれば“Purpose”の再設計やガバナンスの変革、教育・福祉分野では“ケア”や“共感”の現場知をベースにした新しい働き方、地域社会では“多世代・多属性の参加”による自律的コミュニティづくりなど、再生的リーダーシップはどんな現場にも根づく。重要なのは、「正解を持ち込むこと」ではなく、「現場と共に問い、共に学びながら新しい全体を共創すること」である。この「共創(Co-creation)」というキーワードも、全パートを通じて象徴的に用いられている。
著者たちが再三強調するのは、「摩擦や失敗、葛藤、違和感さえも“進化の素材”になる」という点である。たとえばプロジェクトがうまくいかない、予想外の反発を受ける、関係性がこじれる……こうした事態こそが“新たな学び”と“進化のトリガー”となる。著者たちは「生態系における撹乱が多様性や進化を生むのと同じ」と説明し、現場での“傷つき”や“葛藤”を忌避するのではなく、むしろそれらをどう「対話」し、「感情として受け止め」「新しい創造性に変えるか」が、再生的リーダーシップ実践の真骨頂であると説く。
最終章やエピローグにかけて、著者たちは読者一人ひとりに直接語りかける。「あなた自身が“リジェネレーター(再生の担い手)”である」「たとえどんなに小さな現場でも、あなたが始めた対話や関わり、選択が、必ず次の波を生み出す」という力強いメッセージで本書は締めくくられる。「いま、世界のどこかで誰かが始めた小さな変化が、地球規模のウェルビーイングや、組織文化の進化、社会システムの再構築へとつながっていく。しかも、それは決して特別なリーダーや専門家だけのものではなく、あらゆる人が“今日、この瞬間から始められる”生き方そのものである」との認識が、読者の心に鮮明に残る。
本章の最大の特徴は、「行動」に対する徹底的なリアリズムと希望のバランスである。「理想を語るだけなら簡単だが、現場はそんなに甘くない」と正直に認めながらも、「だからこそ、小さな実践と対話、内省、そして“全体性の回復”を大事にするアプローチが唯一の突破口になる」というメッセージをぶれずに貫いている。理論・フレームワーク・ツール・事例が過剰に独り歩きすることなく、「あなた自身の現場で、今日どんな会話や選択を生み出せるか」という根源的な問いへの誘いとなっている。
パート3は、読者の背中を強く押す「行動と創造のパート」であり、同時に「これで終わり」ではなく、「ここから本当の旅が始まる」ことを示唆するオープンエンドな章となっている。「リジェネラティブ・リーダーシップは、遠い理想でも特定のエリートだけの技術でもない。生きているあなた自身が“いまここ”から始める生き方である」――本書を読み終えた時、そのことが実感として胸に残るだろう。
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- 合同会社喜代七 / 喜代七屋 Kiyoshichi LLC / Kiyoshichiya freelance
-
Agriculture, Forestry, Fisheries Management Consultant & Fieldwork Coodinator.
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