ミュンヘンの散歩道にて―季節の果実とドイツの小さな恵み

ミュンヘンの町は、ドイツの大都市でありながら、少し歩けばすぐに緑が広がる穏やかな場所です。私の家の近所にも、四季折々に美しい表情を見せてくれる散歩道があります。その道を歩くと、春から夏にかけてさまざまな果樹が実をつけていることに気がつきます。日本にいたころは、公園や通りに果実のなる木がこんなにも多く植えられていることにあまり気づかなかったのですが、ドイツでは街角や道沿い、住宅地の広場や小さな公園にも自然に果樹が生えている光景が当たり前のようにあります。

この時期になると、特に目を引くのはスモモや梅に似た実のなる木です。ドイツ語ではZwetschgeやPflaume、Mirabelleなどと呼ばれています。Zwetschgeは細長くて青紫色をした西洋スモモの仲間で、Pflaumeは丸みのあるスモモ、Mirabelleは小さな黄色いプラムです。日本のウメとは少し異なるものの、ほどよい酸味があり、熟すと独特の香りと甘さを感じさせてくれます。私の近所にもそうした木がいくつもあり、毎年この時期になると、散歩のついでに少しずつ実を摘んで持ち帰るのが楽しみになっています。

ドイツには、「Jedermannsrecht」という万人の権利があり、森や道端にある野生の果実やナッツは、自家消費の範囲であれば誰でも自由に採ってよいとされています。もちろん大量に採って販売することは禁止されていますが、散歩の途中に一握りのベリーやスモモを摘むことは、ごく自然な生活の一部となっています。私も初めてこの文化を知ったときには驚きましたが、今ではすっかり生活に溶け込んでいます。森や草原、公園や広場で、家族連れや子どもたちが自由に実を摘んで楽しむ光景は、なんとも微笑ましく、また季節の移ろいを身近に感じさせてくれます。

私が暮らしているミュンヘンの散歩道にも、ちょうど今、Zwetschgeと思われる実がたくさん実っています。枝は低く、人の手が届く位置にあり、通りかかる人がひとつふたつと摘みながら歩く姿をよく見かけます。実の色や形は木によって微妙に異なり、楕円形のものや丸みを帯びたもの、黄色く熟しているものもあります。これらの果実はそのまま食べることもできますが、酸味が強いものはジャムやコンポート、ケーキやリキュールに加工されることが多いです。私も日本流に「梅酒」や「梅ジュース」、そしてジャムを作るのが毎年の楽しみです。

収穫した実は、まずよく洗って傷んだ部分を取り除きます。そのままかじると、きゅんとした酸味と、熟度によっては柔らかい甘さが口いっぱいに広がります。ジャムにするときは、果実と砂糖を煮詰めて、レモン汁で酸味を調整します。Zwetschgeの実はペクチンを多く含んでいるので、加熱するだけでとろみが出て、とても作りやすいです。梅酒やリキュールは、焼酎やウォッカに漬けて数か月待つと、深いコクと爽やかな香りが楽しめます。手作りのジャムやお酒は、朝食のパンに塗ったり、ヨーグルトに混ぜたり、また家族や友人と一緒に味わったりと、暮らしの中に小さな幸せをもたらしてくれます。

こうして自然の恵みを自分の手で収穫し、加工し、保存するという体験は、現代社会の忙しい日常とはまったく異なる豊かさを感じさせてくれます。スーパーで買えば一瞬で手に入る食べ物も、自分で摘んだ果実を調理して保存する過程を経ることで、より深い味わいと満足感が得られます。家のキッチンに広がる果実の香り、煮込む鍋の音、そして瓶詰めの中で鮮やかに輝くジャムやシロップは、どれもかけがえのない思い出となり、その土地で生きている証にもなります。

ドイツでは、このような「自然の恵みを暮らしに生かす知恵」が昔から当たり前のように息づいてきました。森や原っぱにはブラックベリーやラズベリー、カシス、リンゴ、クルミなどさまざまな野生の果実や木の実が自生し、四季折々に人々に豊かな贈り物を与えてくれます。都市化が進むなかでも、「自分で採って自分で食べる」ことを大切にする文化は今も色濃く残っています。最近では自治体や学校が「エッセバウム(食べられる街)」プロジェクトを推進し、公共の場に果樹を植えて市民が自由に利用できるようにしたり、季節ごとの果実の収穫情報をホームページや地図で公開したりする取り組みも増えています。

日本でも、かつては庭や里山でウメやスモモ、柿や栗などを収穫し、家族でジャムや干し柿、梅酒などを作るのが当たり前でした。ドイツでの生活を通じて、そうした「季節を味わう暮らし」の大切さや楽しさを改めて実感しています。瓶に詰めた梅ジャムやリキュールは、寒い冬の日にも春を待つ気持ちを思い出させてくれますし、知人や友人におすそ分けすれば、会話も自然と弾みます。季節の果実をみんなで分かち合うことが、心の豊かさにつながっているのだと思います。

自然の恵みをいただくことは、現代の大量生産・大量消費社会の中で忘れがちな「ゆっくりとした時間」や「丁寧な暮らし」を取り戻す機会でもあります。散歩道で偶然に熟した実を見つけて手に取る、その小さな喜びは、日々の忙しさを忘れさせてくれます。家族や友人と一緒に果実を摘み、手を動かして保存食を作る時間は、何よりも贅沢なひとときです。そうした積み重ねが、日常のなかにささやかな幸せや安心感をもたらしてくれるのだと感じます。

これからもミュンヘンの散歩道を歩きながら、季節の実りを見つけては小さな喜びを味わいたいと思います。自然とともに暮らす知恵と感謝の気持ちを忘れずに、ひとつひとつの実に込められた季節の恵みを丁寧に受け取っていきたいです。どんなに便利な時代になっても、こうした「自然の時間」を大切にする心は、これからも変わらず持ち続けていきたいと願っています。

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kiyoshichiya
kiyoshichiya合同会社喜代七 / 喜代七屋 Kiyoshichi LLC / Kiyoshichiya freelance
Agriculture, Forestry, Fisheries Management Consultant & Fieldwork Coodinator.

We are working to live our LIFE that can be enjoyed for seven generations. Utilizing my know-how and experience, I am working as a professional consultant mainly in Japan and Germany. My hobbies are Mountaineering, Violin, Academic Learning & Fieldwork.
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